夏の穂高連峰縦走2016(第2部)


核心部となる北穂高岳〜涸沢岳の縦走。
やはり昼近くになるとガスが発生しやすくなるようで、行程全体を通して霧の中に入ってしまうことが多かったです。それでも霧が晴れる合間もあり、コンディション的には昨年よりは若干良かったような気がします。





09時06分
北穂高小屋で休憩をします。
炭酸飲料を飲んで水を補給します。水はここから涸沢岳までもてば十分なので500mlのみの補充にしました。なるべく荷物を軽量で済ませるためです。もちろん人によって消費量は様々ですから自分の状態やその日の天候に合わせて用意することが基本ですが。

あまり長々と休んでいても体が冷えてきてしまうので適度に体が休まった段階で早めに出発します。





09時36分
一旦北穂分岐まで戻ります。そして今度は奥穂高岳方面へ登り返します。
北穂高岳は双耳峰で先ほどのいわゆる山頂と呼ばれている(道標がある)のが北峰、そしてこれから経由していくのが南峰です。
北穂分岐から南峰の間は距離は短いですが浮いている岩が多く、とにかく落石させないように神経を使います。今まで気がつかなかったのか、最近設置されたのかわかりませんが石像が安置されていました。





09時42分
南峰に登頂し槍ヶ岳峰方面を見渡します。
やはり絶景ですね。人が少なくてこじんまりした南峰もまた良いものです。少し周囲を見渡します。これから歩く涸沢岳方面の稜線はガスが湧いてきています。おそらく稜線を歩いている途中でガスの中に入ってしまうかもしれません。それはそれで一長一短がありますが、昨年もガスの中に入ってしまったのでちょっと残念な気がします。





09時43分
まずは南峰から一気に下り写真右手に見える滝谷ドームに向かいます。
完全な岩場です。確実にホールドしながら慎重に進んでいきます。下りですので体力的には多少楽ですが精神的にははるかに疲れます。
一部鎖が設置されていて多少歩きやすくはなっていますが、通常の穂高の登山道と比べ縦走路は難易度が格段に高くなっています。
アルプス山系の難易度ランク表というのが岳沢小屋のトイレの壁に貼ってあったのですが、体力度および技術度共に最高ランクは大キレット、その次に高難度とされているのが、この北穂高岳〜涸沢岳の稜線でした(西穂〜奥穂は登山道扱いではない)。
それほどの高難度の稜線を行くのですから気を引き締めて進んでいきます。





09時47分
進むべき方向に○印や矢印が書いてあります。逆に行ってはいけない場所には罰じゃなくてバツ印が書いてあります。このバツ印は普段の登山道であれば「こっちには行かない方がいいんだね」と言う感覚(例えば岩が浮いていて危険とか、道が変更になったとか)ですが、ここでバツ印というのは本当に危険、生と死の境くらいの感覚になってしまいます。×の重みが違います。





09時53分
この崖を登っていきます。もちろん鎖や梯子などというご丁寧なものはありません。この程度の崖なら平然と超えていける技術や体力が求められます。で、もちろん両側は同じ崖が谷底まで続いているということは言うまでもありません。
この部分に限って言えば前穂高岳や吊尾根と技術的にはそう変わらないのかも知れませんが、決定的な違いは高度感です。谷底まで続く崖を見てしまうと足がすくんでしまいます。なるべく進行方向だけを見て恐怖感を助長させないようにします。





10時06分
霧が晴れ涸沢が一望出来るようになりました。
ザイテングラートもよく見えています。この角度からの写真だとそんなに斜度があるようには見えませんが実際は見た目をはるかにうわまる斜度になります。写真に騙されないようにご注意ください。
こうやってみると改めて雪の少なさを実感します。





10時11分
さらに霧が晴れてきて、この縦走路最難関の涸沢岳の大絶壁が見えてきました。登山地図ではかろうじて一般登山道とされながらも危険地帯と警告されている部分です。昨年は死亡事故が起きている場所でもあります。
この大絶壁に取り付くためにはまず「最低のコル」まで降りていきます。





10時21分
パッと見ただけでは単なる崖の連続で、一体どこを進んでいけばいいかわからないのですが、きちんと丸印が付いているおかげでこんなとんでもなく見える岩場も比較的安定して歩いていくことができます。
今回はそれほど登山者同士のすれ違いはありませんでしたが、反対側に向かう登山者が確認できたら、まずはどこですれ違えられるか周囲を確認します。写真のようなところだと一見すれ違えられるスペースがないように見えますが、実際は意外とスペースがあるものです。





10時30分
さて、ここからは一気に下りになります。
基本的にはキレットですので「底」の部分があります。先ほども触れましたがこの稜線ではこの底の部分を「最低のコル」と呼んでいます。最低のコルまでたどり着くと今度は反対側に向かって登り返します。この登り返しが穂高の稜線の中で一位二位を争う難度を誇る絶壁な訳です。
霧が晴れているので直射日光が照りつけています。まあ、雨になるよりかはましです。この稜線で雨に降られてしまうと本当にお手上げです。雨だけは勘弁です。





10時31分
この部分の下りは岩場を下りていくのではなく、ザレた斜面を慎重にジグザグに降りていきます。私が最も神経を使う場面です。涸沢側の斜面は反対の飛騨側と比べるとまだ斜度が緩いので極度の緊張感はないですが、それでも転倒は許されない場所ですからゆっくり降りていきます。





10時43分
最低のコルに到着。
この標識はいつ来ても変わらなくっていいですね。なんだか安心感があります。
この少し先に休憩できるちょっとしたスペースがあります。ここから先は再び岩場の直登の連続になりますから、直登に備えて体力を回復しておきます。水分補給し行動食を食べておきます。
休憩中に先にお会いした数名のグループが通過していきます。ここから先は鎖場の連続でキツいですよと伝えます。先頭の方がグループの方に翻訳してくれました。ただ彼らの技術では全く問題なさそうでしたが・・・





10時59分
休憩中にふと周囲を見渡してみると、こんな岩場でも綺麗に謙虚に花が咲いていました。残念ながら花の名前はわかりませんが無味乾燥な3,000m超の岩場でとても美しい存在でした。
これも夏山ならではかもしれませんね。
確かに高山帯で咲く花は下界の花屋さんで売られているような豪華な花と比べると質素に感じるかもしれませんが、私は逆にこの質素で謙虚な感じが好きですね。苦労してこの高度まで登ってこないと見ることができない言わば高貴とも言える存在です。





11時11分
さあ、ついに最後の大絶壁に取り掛かります。
まずは凶報。最初の梯子の先の岩が崩れて梯子の先の進むのが難しくなっているとの情報が入っています。先行者を見ていると案の定「うわ、どうすればいいいんだよ〜」と言った戸惑う声が聞こえてきます。
実際、その部分に行ってみると、なるほどこれは通過に困難を極めます。アンカーボルトが2本打ってありますが、これと鎖を効果的に使って乗り越えるしかありません。実際に私も慎重にこの部分を通過しようとしましたが鎖を握ってほぼ懸垂に近い形で乗り切る形になってしまいました。しかも下は絶壁。鎖を離してしまったらアウトです。





11時42分
垂直の崖と鎖の危険地帯はさらに続きます。
基本的に危険な箇所は鎖が取り付けられていますが鎖がない部分もあります。岩をしっかりとホールドし、三点確保を厳守して登ります。そう、登る一方なので体力や筋力が試されます。しかも高度は3,000m前後ですので、通常より疲れやすくなっています。
再度ガスが湧いてきて直射日光が遮られます。岩に取り付いている時には体力の消耗がある程度抑えられますので良いのですが、踏破した時に景色が期待できないかもしれません。まずはこの絶壁を登りきることだけを考えることにします。





11時54分
ここは普通の登山道と比較すると非常に難度の高い場所ですが、この稜線からすれば比較的楽に登れる場所です。ただここに来るまでに体力を消耗しているのでやはり大変ではあります。鎖や梯子はありませんし、特に必要と感じることもありません。ゆっくり登っていけば問題なく登れます。
ただ若干浮いている岩があったように感じました。この稜線を縦走するレベルの方であれば闇雲に岩をホールドすることはないとは思いますが、怪しいと思う岩は必ずチェックしてからホールドするのが鉄則なのは言うまでもありません。





12時01分
そしてラストスパートです。
この岩壁を登りつめれば終わりです。涸沢岳までしばらく歩きますが普通に横に歩いていくだけなのでこの岩壁がラストです。
やはり高度感があるので鎖は絶対手放せません。3,000m超の高度で疲労度maxになっていて次の一歩を踏み出すのがやっとです。
あともう少しというのがわかっていますので、自分を励ましながら、上がる息を落ち着かせながら詰めていきます。なんとなく周囲の雰囲気であと少しというのがわかるような気がします。
最後の鎖が懸垂気味できついですがそれをクリアすれば大絶壁踏破となります。





12時08分
涸沢槍絶壁踏破。
この達成感がたまりません。しばらく呆然と立ちすくみます。
同じ涸沢槍でも穂高岳山荘側からくれば何の問題もなしに普通に登頂出来てしまいます。ですがその達成感は比べものになりません。





12時08分
すでに霧が稜線を覆い始めていてクリアな視界ではありませんが、今日歩いてきた登山道や稜線を振り返ることができます。改めて見るとすごいところを越えてきたんだなと実感します。特に左側の滝谷ドームから下は見ているだけで鳥肌が立ちそうです。実際に取り付いている時はあまり感じませんでしたが、遠くから見ると登山道の中でも高難度であるとされている理由がわかります。
さあ、今いるのは涸沢槍。涸沢岳まで歩いていきます。





12時15分
涸沢岳登頂。
完全に霧で覆われてしまい視界はありません。時間調整も兼ねてしばらく停滞していましたが霧が晴れることはありませんでした。ここのところ涸沢岳で好天に恵まれることが少ないです。
この時間だからなのか穂高岳山荘側から涸沢岳に登ってくる人はいません。ずっと頂上独り占め状態でした。





さあ、目下には今日宿泊予定の穂高岳山荘が見えます。
ここからは15分もあれば到着できるでしょう。せっかくなのでもう少し山頂でくつろいでから降りることにします。

今回の穂高連峰縦走の核心部分を無事に終えました。

穂高岳山荘にチェクインして用事を済ませ、軽食をいただきます。
疲れが出ているせいかアルコールを飲む気にならなかったので、カレーと炭酸飲料をいただきました。
その後は布団で先に寝てしまいました。

時間が経つと山荘が徐々に賑わってきました。
5月に宿泊した時はこじんまりしていて自分の感覚に合っていたのですが、あまり賑やか過ぎるのは苦手です。
夕食は2回目があったので宿泊者もそれなりに多かったのだと思います。

さて、明日は4時の出発予定なので、朝食の弁当を受け取ったらすぐに就寝します。


記事は第3部に続きます。


第3部はこちら



2016年7月22日



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