夏の穂高連峰縦走2016(第3部)


最終日の3日目。
天気予報に反して稜線上は好天。前穂高岳からの眺めも最高でした。重太郎新道の森林限界付近から雲の中に入ってしまいましたが、稜線からの眺めが素晴らしかったため全く問題のない登山でした。






04時41分
朝4時に出発予定でしたが起きたのが3時55分。
すぐに準備をして飛び出してきました。山荘で掲示されていた天気予報は正午に天候が崩れるがそれまでは晴れの予報となっていました。
実際雲はあるもののコンディションは問題無し。すぐに奥穂に向けて岩壁に取り付きます。
やはり3,000m超で朝一番の岩壁の直登は体にこたえます。すぐに息が上がってしまったので、動作を遅くするなどして修正をします。

徐々に体が慣れてきた頃、だいぶ空が明るくなってきました。ご来光が来る瞬間を見計らって眺めの良い場所で待機します。
そして来ました! ご来光!
やっぱり3,000mからのご来光は美しいですね。遮るものが何もない。雲海が出ていて本当の海から登ってきたような感覚になります。ここのところ最終日にご来光を見れる確率がかなり高いです。感謝感謝です。






04時43分
ご来光を満喫したら、まだ朝日に照らされて真っ赤に燃え上がる稜線を歩いていきます。よく見ると空にはまだ月が輝いています。
今日はシェルジャケットを着込んでいます。予想はしていましたが3,000mの稜線で早朝の時間帯はいくら何でも着込まないと冷えてしまいます。ましてやご来光を撮影するために停滞していたのでシェルジャケットは必須です。





04時55分
奥穂高岳登頂。
この時期、この時間帯はちょうど逆光になってしまうようですね。カメラのフラッシュがなかったら多分真っ黒なシルエットになっていたでしょう。ま、露出とかマニュアルで設定できる腕があればまた別の絵が撮れたのかもしれませんが。そのような設定も可能な機材だけにauto機能しか使っていない自分に未熟さを感じてしまいます。
カメラ少し勉強するかな・・・





槍から穂高の稜線が朝日に照らされ、新たな息吹を吹き込まれたような印象を受けます。今日も穂高の峰々は変わることなく新たな一日が始まります。

時は常に流れています。時代は常に変わります。時代の変化とともに人の価値基準も変わってきます。昨日まで不道徳と言われていたものが今日は合理的・適切なものとされるような時代。我々が本当に向き合っていかなければならないのは何なのか、もしかしてそれは時代そのものなのか。それでもこの穂高の頂点から眺める夜明けは時代がどんなに変化しても決して変わることはない。

朝日に照らされる峰々を見ているとそんなことを考えてしまいます。

「よろしければ写真撮っていただけますか?」

二人組の登山者に頼まれて写真をとることにします。
顔に朝日が直接当たって画像が悪くなるので少し位置をずらしてもらい、ちょうどジャンダルムが背景に入るようにしてシャッターを押します。

お二人ともカメラ用の作り笑顔でなく、心の底から笑顔になっているのがよくわかります。ここまでくるのに疲労困憊しているはずなのにそれでも満面の笑みになる。山を愛する人の心は変わらないんだと実感できます。

私もあと何年山に登れるのかわかりません。これから科学技術が進化して登山の環境というものがさらに進化を遂げていくに違いありません。もしかしたら私が山に登れるうちにそんな科学技術の発達の恩恵を受けれるのかも知れません。登山のスタイルというのも変わっていくのかもしれません。それでも山を愛する人の心は変わることがないと信じています。いやそうであってほしいです。





時代は常に変化する。価値基準も変化する。では時代の変化とともにすべてが変わっていってしまうのか。変化しないもの、いや変化してはいけないものもあるはず。ある人は人間の「良心」を取り上げる。「いつの時代でも人殺しが正当化されたことはない。時代の流れでそれが助長されたことはあったが、結果としてそれが正しいとされたことはない」

私はここで特定の政治・宗教の理念を書くつもりはないしそのようなものは一切持ち合わせていません。ですがいくら時代が変わっても変化しないものをまさに今目の当たりにしています。

今日も前穂高岳やそこに続く吊尾根は威風堂々とそびえています。
「さあ、来い!」と言われているようです。よし!登ってやろうじゃないか! 待ってろよ!





振り返ってみると、ジャンダルムの勇姿が。
いや決して彼の存在を忘れていたわけではありません。今日はなぜか奥穂高岳山頂から見るあらゆる景色が幻想的で忘れがたいのです。わからない方に無理に理解を求めることはしません。この天空の世界に共感を覚え穂高を愛する人に分かっていただきたいというだけです。





05時37分
意外に話題にならないのが奥穂高岳から紀美子平間の吊尾根です。
聞こえてくるのは重太郎新道がどのような登山道かというような会話です。もしかしたら吊尾根も含めて重太郎新道として語っているのかも知れませんが。

吊尾根は写真のような岩場の急斜面をトラバースする難路です。鎖も数箇所あり、三点確保で慎重に上り下りする場所もありで、初めて穂高連峰にチャレンジする方にとっては非常にハードルが高い稜線だと思っています(あくまで個人的主観です)。
むしろ吊尾根を問題なくクリアできる方なら重太郎新道は問題ないとすら考えています。





06時12分
先ほどまで雲で覆われていた西穂高岳の稜線がはきり見えるようになりました。つい先日この稜線でベテランの山岳ガイドが滑落死するという痛ましい事故が起きたばかりです。プロの登山家でさえこのような事故を起こすのですから、我々一般の登山者はなおのこと危機管理を徹底しなければならないわけです。
今日の西穂高岳の稜線は悲しいくらい美しい姿でした。





06時40分
紀美子平到着。
ここで朝食をとることにします。途中で簡単な行動食は食べたもののやはり4時前に起床してずっと歩き通しだとさすがに空腹になります。
朝食はいつもの穂高岳山荘名物朴葉寿司。これに魚の甘露煮とチキンフライが付いています。意外に量が多くしっかりした朝食になります。「紀美子平で朝食を」どこかで聞いたような言葉ですが自分の中ではすっかり定番になりつつあります。





07時02分
今日の紀美子平からの眺めは雲が多くて決してコンディションが良いとはいません。ただしもともとが曇りの予報だったことを考えるとこれだけでも上等だと思います。
雲の高さと西穂高岳の稜線を比べるとちょうど丸山上部の斜面あたりの高さに雲があるものと思われるので、約2,500m以下が雲の中に入ってしまうものと思われます。





07時14分
紀美子平から前穂高岳は岩場の登りで、岩場に慣れていない方は試練の連続になります。地図では30分と書いてありますが時間以上のものがあります。どの方面から来ても既に疲労困憊しているであろう状況でありそこからの岩場の直登ですからかなりキツい登りになります。同じ道を下りてくるしかありませんので、ザックは紀美子平にデポしていきます。





07時24分
最後はザレ気味の岩場の直登になります。穂高はここまで試練を与えるか・・・っていうくらい最後の最後まで直登。しかも浮いている岩も散見され、かなり精神的にキツいです。
三日目ということもあり、またこれから重太郎新道を延々と下山していくことも考え、これ以上ないくらいゆっくり進んでいきます。
それでも「どうぞ先に行ってください」と譲っていただき、皆なキツいんだなって実感します。





07時36分
前穂高岳登頂。
今回の縦走で最後の山に登頂しました。さあ、もう登りはありません。あとは上高地まで下山のみです。
今日の前穂高岳からの眺めは最高です。今までで一番良かったのではないかと思います。気が付いたらバラバラに登り始めた方々が皆一緒に登頂していました。写真など撮って盛り上がっています。
前穂高岳の山頂は想像していた以上に広いです。前穂第2峰方面に歩いていくと穂高方面の眺めが良くなります。





07時39分
これは絶景です。槍ヶ岳〜北穂高岳〜涸沢岳〜奥穂高岳と3000m級のスカイラインが一望できます。
2013年に槍ヶ岳〜北穂高岳を踏破したことにより、槍〜前穂の縦走を成し遂げることができました。今思えば色々な思い出がこみ上げてきます。もちろん良い思い出だけでなく辛い思い出も。ですがこの絶景を見ているとそんな辛い思い出もどこか吹き飛んでしまいます。

さて、あまり長居もできませんので、一足先に紀美子平に下山させていただきます。私の下山を期に皆一斉に下山を始めたようです。後ろの方から声が聞こえてきました。必要であれば先に行っていただこうと思っていたのですが、結局紀美子平まで私が先に降りてきました。





08時23分
重太郎新道ですが紀美子平からすぐの部分は鎖が連続し岩場を直に降りていく難易度の高い登山道です。
奥穂高岳に登った後、涸沢から下山するか重太郎新道から下山するか迷っている方を時々見かけますが、慣れていない方なら迷わず涸沢からの下山をお勧めします。吊尾根が難易度が高いだけでなく山小屋も岳沢小屋までありません。奥穂高岳山頂からは前穂をスキップしたとしても岳沢小屋まで4時間以上はかかります。上高地までの到達時間も相当健脚な方は別にして一般の登山者であればあまり変わりません。
涸沢ルートに比べると重太郎新道のルートでは事故も多発しています。
あとは自分の技術等を参考に判断していただくしかないです。





08時31分
雷鳥広場到着。
雷鳥は天気が悪いと出てくるのだそうで、案の定今日みたいな好天だと姿が見えませんでした。さっきまで同じ目線だった西穂高の稜線を見上げるようになりました。それだけ一気に高度を下げたということです。
ですが雷鳥広場といえばまだまだ上の方です。先は長いです。転ばないように慎重に下っていきます。





08時31分
高度を下げていくと雲の中に入っていくようです。逆に岳沢から上がってきた人は雲を抜けて稜線が見えると感激しています。それはそうですよね、まさに雲上の世界なわけですし、ここに来るまでは稜線の気象条件はわからないわけですから。





09時27分
森林限界を割り込んだあたりで完全に雲の中に入りました。さらに下山を続けていくとカモシカの立場に到着します。
ここまでくるとだいぶ降りてきたことになります。岳沢小屋がだいぶ近くなっています。
ただし、ここから先は事故多発地帯ですので思わぬところで転ばないように注意します。

すれ違う方や抜いていく方を見ているとヘルメットでなく帽子の方が多いです。帽子は万が一転倒して頭を岩にぶつけたときに守ってくれません。ここはファッションを披露する場ではなく実際的な方法で自分の身を守るべき場所です。厳しい書き方ですが実際に重大事故が起きている場所であることの意味を考えていただきたいのです。





09時48分
延々と長く続く梯子の登場です。
自分の中でこの梯子を美化しすぎていたためか、もっと長いかと思いこんでいました。想定よりも短かったのでちょっと間が抜けてしまいました。
この長い梯子を下りるとあとは緩やかな登山道をジグザグに下りていくだけです。とは言ってもさすがにずっと下っているので足が疲れてきます。足首や膝、腿の筋肉がプルプルいっていて普段のトレーニングをもっと徹底しないといけないと実感させられます。





10時17分
岳沢小屋到着。
紀美子平から約2時間で下山したことになります。とりわけ急いだ訳でないし逆にゆっくり降りてきたつもりなので手前味噌ではありますが少しは技術が進歩したのかもしれません。水分補給のコントロールも良くできたと思います。いつもは岳沢小屋に到着するまでに水を飲みきってしまったのですが、今回は重量が重くなること覚悟で穂高岳山荘で多めに水を補給したこともあり最後まで水を切らさずに済みました。

岳沢小屋では炭酸飲料とカップラーメンをいただきます。山小屋の食事はここが最後。上高地まで降りてしまうとお上品な食事しかないので少し早いですが昼食代わりにします。





12時29分
岳沢登山口到着。登山終了。
登山の要素があるのはここまで。これにて登山終了です。

今年の夏の穂高連峰縦走は結果的には天候に恵まれ大成功でした。出発前の気象情報でははっきり言って期待できる状況ではなかったのですが、良い意味で予報が外れてくれて運が良かったです。



なんで同じ山ばかり登るの? とよく聞かれます。私に言わせれば「同じ山」というのは存在しないんです。穂高の峰々は季節によって全く異なった様子を見せてくれます。同じ時期であってもその年によって様子は違います。今年はなんといっても普段より雪が少ないのが衝撃的でした。来るたびに様子が違う穂高の峰々にその都度魅力を感じます。

おそらく次に穂高を訪れるのは秋になると思います。秋は秋で全く異なった姿を見せてくれます。同じ秋でも紅葉が始まった初秋と冬の足音が聞こえて来る晩秋ではまた違います。私は晩秋の穂高も大好きです。そしてやがて峰々は雪に覆われ冬山の季節がやってきます。私の大好きな冬山です。

山は生きています。人口の造成物ではありません。だからこそ大切にしなければならないと思います。愛する気持ちが必要です。山を愛していればゴミを投げ捨てるようなことはしないでしょう。今回の登山で飴の袋やお菓子のゴミやペットボトルなどのゴミが捨てられているのが結構目につきました。こういうのを見る度に残念な気持ちになります。連休後のテントサイトからは大量のゴミが出てくるとも聞きます。まあ、こういうことをする人は山に限らず海でも川でもどの分野でも同じことをするのでしょう。マナーを守れない人に「守れ」というつもりはありません。できないんですから。罰則を設けたり監視を強化したりする取り組みもありますがマナーを守らない人に対してどれほどの効果があるのか不明です。ゴミを平気で捨てるような人間にはマナーを守る能力がない、マナーの意味がわからない、わかろうとしない。そのくせ自分の家や車の中だと言った「縄張り」だけは綺麗にする。自分さえよければ他はどうでも良い。
だから一言だけ「来るな」。


夏の穂高連峰縦走を終え、今回の登山を見直し、反省点や次回に生かすべき点を分析しています。少しでも安全で楽しい登山となるように自分なりに努力しています。

さて、次回はどんな山のドラマが待ち受けていることでしょう。今から楽しみです。


閲覧いただきありがとうございました。



2016年7月23日




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