穂高の春2016(第1部)


2016年の春の穂高。
一言で言えば「雪が少ない」につきます。出会う登山者との会話は「雪少ないですね〜」が挨拶代わりになっていたくらいです。

あまりにも雪が少ないので横尾から涸沢の登山道は谷底を通る冬季ルートが使えず、夏道をトラバースしていくという今までに経験したことのない状況となっていました。雪渓のトラバースそのものは冬の西穂高でこれでもかというくらい訓練されてきたので問題はないのですが、やはり緊張感はあるものです。

天候は見事に恵まれ、吹雪で引き返してきた昨年のリベンジとなりました。





07時11分
上高地到着。
河童橋から奥穂高岳を見上げます。
いやいや、話には聴いていましたが「雪少なすぎでしょ」って思わず叫んでしまいました。西穂沢は何とか雪があるように見えますが、南稜とか無理なんじゃないかなって思ってしまいます。
唯一救いなのは天候が良いことです。今日は涸沢までの行程ですからゆっくりと歩いて行くことにします。





07時47分
昨日はどうやら大雨だったようで梓川の流れが激しいです。水も濁っていていつもの透明感あふれる梓川ではありませんでした。
もし日程が1日ずれていたらと考えるとぞっとします。





08時02分
旅は道連れ。
ってわけでお猿さんと一緒に歩いていきます。
このまま涸沢まで一緒に行くか? と思いきやすぐに森の中に入って行ってしまいました。猿もこの時期は餌を見つけに山から下りてくるんでしょうね。
猿と別れてさらに先へ進んでいきます。





09時29分
通常この時期は横尾付近になるとまだ雪が残っていて通れないので、川沿いの搬入路に迂回する形になるのですが、今年は雪が全くないため迂回する必要がありません。

写真に雪の塊が写っていますが、雪があったのはこれだけです。
ちょっとびっくりですね。





09時39分
横尾に到着。
連休後の平日の木曜日。さすがに登山者は少ないです。

ここで朝食を食べます。
食後ベンチに横になって昼寝をします。仮眠をとったとはいえ車で夜通し運転してきたので、ここから先の行程を考え少し昼寝して体力を回復しておきます。





10時31分
さて涸沢に向けて出発します。
橋の欄干にも掲示されていますがここから先はどちらの方面に向かっても登山道になります。さすがにここまで来る観光客は見たことがないですが、横尾の手前の徳沢では子ども連れの家族がテント張ったりしていてレジャーできている方が多かったので、そんな方々が間違って登山道に踏み入れたりしたら危ないですからね。

ハイシーズンには絶え間なく登山者が行き交うこの横尾大橋も今日は誰もいません。のんびりと橋を越えていきます。





11時18分
横尾から本谷の橋がかかっている場所まで雪があるのは写真を含む2カ所の雪渓のみです。あとは完全な夏道になっています。

2カ所の雪渓もだいぶ薄くなっていて、帰りにはうち1カ所が崩落していて安全なルートがマーキングされている状況でした。





11時31分
お分かりになる方はわかると思います。
これが2016年5月連休後の本谷橋の写真です。
衝撃の光景です。決して夏の写真ではありません。

雪がない!

この時期に本谷橋がかかっている!

通常この時期ですと雪で一面真っ白で橋などかける状況ではありません。
雪の上を歩いて対岸に渡るのですが、どのタイミングで対岸に渡るかということでいつも話題になるのですが(今年はいつもより下流で渡ったとか・・・)今年はそもそも雪がないというありえない状況なわけです。

それでもちょうど良いタイミングなので川岸の岩に腰掛けて少し休憩させてもらいます。





11時50分
本谷橋を渡って少し登るとご覧のように雪が出てきます。
ここから雪上歩行かと思いきや、すぐに夏道が出現します。ここでアイゼンを装着するのはまだ早いようです。
ステップも付いていますしきちんとキックステップで蹴り込んでいけば大丈夫だと思います。あとは慣れですよね・・・





11時58分
さらに登っていくと完全に雪上歩行になります。
写真のような雪渓を何度もトラバースすることになります。そんなに斜度があるわけではないので雪渓のトラバースに慣れている方なら問題はないと思います。

私は本谷橋から先は念のためにピッケルを装備しています。万が一滑落した場合に止まれる手段があれば無用な怪我をせずに済むからです(この場所では怪我で済むかもしれませんが涸沢上部では命に関わることでもあります)。





13時15分
頑張って登っていくと穂高連峰の姿が見えてきました。そして遠くには涸沢ヒュッテの姿も見えています。
いつも書いていることですが、この涸沢ヒュッテが見えてからが長いんですね。登れど登れど小屋が近づいてこないんです。疲れが出始めているのでペースが少しづつ落ちてきています。
ま、それでも良し。自分のペースでゆっくり登っていきます。





13時51分
涸沢ヒュッテと涸沢小屋の分岐点です。
夏道だとこの道標から二手に別れるのですが、この時期は道という概念がないのでこの道標を目印にそれぞれの小屋の方面へ登っていく形になります。

私は涸沢小屋に宿泊なのでそちらに向けて登ります。ちょうど自分の歩幅にあったトレースを見つけたのでそれを利用させてもらいます。もう、涸沢小屋は目と鼻の先なのですが、位置的な関係で本当に小屋の近くまで行かないと小屋が見えないのでちょっと不安になってしまいます。





14時05分
さあ、涸沢小屋が見えてきたというその時、荷揚げのヘリがちょうど降りてきました。しばらくホバリングしているのかと思いきや荷物を降ろすとすぐに飛び立ってしまいました。一瞬の出来事です。

飛び立つ際、吊尾根方面の崖に向かって行ったので、「大丈夫か、衝突するぞ!」と思ったのですが、どうやら雪崩やクラックのチェックをしていたようです。しばらくすると高々と上昇していきました。





14時09分
涸沢到着。
最初は雪が少なくて果たして今年の涸沢は如何なものかと思っていたのですが、こうやって涸沢に到着して見ているといつもの真っ白な涸沢で安心しました。それでも例年に比べると雪は少ないそうですね。

雲ひとつない快晴で最高のコンディションです。
風もあまりなく暑いです。時々吹き付ける風が心地よくて最高ですね。





涸沢小屋にチェックインします。
一通り済ませて、さあ! お待ちかねの生ビール!!

いやー、美味しい!! 最高!!

涸沢の広大な景色を見ながらの一杯は何者にも代えがたいです。ビールを飲み昼食を食べてそのままテラスで大の字になって昼寝しました。とても自由ですね。

気がつくと日が落ちていて肌寒くなっていましたので、小屋の中に入り適当に時間を過ごします。夕食は10名いるかいないかというところでしょうか。昨年に比べると若干人数が多いような気がしますが、やはり天候の関係もあるのでしょうか。それでも登山者が少ないのは事実です。

今日の宿泊は大部屋でした。しかも数人しかおらず、ほぼ貸切に近い状態でした。
明日に備えて早めに就寝することにします。





06時46分
翌朝です。
天気は完璧な青空。雲ひとつありません。
朝食後、準備をしてすぐに出発することにします。
アイゼンにピッケルもちろんヘルメットもかぶり、万全の装備で穂高岳山荘(白出のコル)に向けて登っていきます。意外に時間がかかった記憶があるので3時間程度を目安に登ることにします。





06時56分
こうやって写真で見るとそんなにすごいところのように思えません。簡単に登れそうな気がします。
そこが落とし穴なんです。実際は写真で見たよりも角度が付いていて大変です。しかも登れば登るほど高度感が出てきます。
登る分にはまだ良いかもしれません。しかし一度登ったら、ここを降りていかねばなりません(白出沢方面へ行くとかなら別ですが)。いざ降りようとしたときにあまりにも急勾配で足がすくんでしまうことも考えられます。
実際にここで600m滑落して死亡する事故が昨年発生しています。

ですので雑誌の記事とか見て「何となく登ろうと思った」「面白そうだから」と言った安易な気持ちで登るような場所ではありません。
この斜面をストックで登っている方を何人か見かけましたが、いざ滑ったら止まる手段がないです。ここはピッケルです。ピッケルなくても大丈夫でしょうと思う方は命があるうちに登るのを思いとどまった方がいいです。ピッケルがない=滑落するとは言っていません。ピッケルを使う理由はなんですか?と言いたいのです。

私は雑誌やブログ等で春の穂高の美しさを紹介することは決して悪いことではないと思います。むしろ穂高の魅力を伝えるというのは是非とも継続していってほしいと思います。ですが魅力を伝えるだけでなく、そこには多くの危険が潜んでいるということも伝えていただきたいと願っています。天候の急変、雪面の状態など登山者を取り巻く環境はリアルタイムで変化します。その変化に柔軟に対応出来る能力(決断力)、経験、知識、技術、体力があってこそこの崇高な世界に足を踏み入れることができるわけです。本来なら。

ニュース等でご存知のように今年も穂高で事故が多発しました。個々の事故の状況も各方面から聞こえてきましたが、登山者の全てがもう少しリスクマネジメントができていれば、悲しい思いをする人が減ると思いました。





07時14分
高度を上げていくと周囲の山が自分の目線に近くなってくるのがわかります。

北穂高岳は例年夏に登っています。この時期は北穂に登る人と奥穂に登る人(たまに両方登っちゃう人)がいてそれぞれに話を聞けて面白いです。北穂高小屋のテラスはこの時期設置されていないとか、いろいろマニアックな情報も頂けたりするわけです。





07時37分
ザイテングラート取り付けまで登ってきました。
夏道の場合はこの岩を登っていくのですが、この時期は雪面を登っていきます。この写真だと多少斜度がキツイのがわかるでしょうか。
もちろん雪の状況(雪崩等)によっては雪面でなくザイテングラートそのものを登るように警告されている時もあります。雪崩を見据えたルートファインディングが必要です。





07時59分
今日の雪面の状態は一言で言えば最高です。
トレースもしっかりしたものがついていて歩幅も自分にぴったり。雪の崩れもほとんどなく安定して登っていけます。かなりラッキーです。
雪が崩れるような状況だと一歩を踏み出すのも大変で時間や体力を大幅に消耗してしまいます。これは冬山でも同じですが雪の状態で登山の状況が大幅に変わってしまうわけです。





08時17分
さあ、目的地が射程内に入ってきました。ここから斜度が一層きつくなり高度感も半端なくなってきます。最初から意図的にペースを落として体力を温存していますので多少のゆとりはありますが、高度が3,000m近くなっているので同じ行動でも疲れやすくなっているのも事実です。
先行者が見えなくなりました。おそらく穂高岳山荘(白出のコル)に登り切ったのかもしれません。私も焦らず自分のペースでラストを登っていきます。





08時25分
前穂高岳を撮ったものですが、この写真だと「こんなところなんだよ」と言うイメージがつきやすいかと思います。この急斜面が涸沢のテント場までずっと続いているのです。なので一度滑ってしまい、初期状態で滑落を止められなければ限りなく滑落していってしまうというのは想像できると思います。





08時47分
穂高岳山荘(白出のコル)到着。
雪面のコンディションが良かったため予想していたよりも大幅に短縮して何と2時間ジャストで登ることができました。
夏や秋でさえ2時間以上はかかっているので、今回は本当にラッキーでした。

さて、想像より早く穂高岳山荘に到着しましたので、小屋のチェックインや軽食は奥穂高岳に登頂した後に行うことにしました。

少しの休憩の後、今回一番の核心部分である奥穂高岳への稜線に取り付くことにします。



記事は第2部へ続きます。



第2部はこちら




2016年5月13日


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