穂高の春2016(第2部)


天候、雪質その他あらゆる条件に恵まれた今年の奥穂高岳。順調に穂高岳山荘のある白出のコルまで登頂しました。ですが、ここから先が本当の正念場。ここまでこれても条件が悪ければ撤退しなければなりません。
奥穂高岳に向けた最終部分のアタック。
あらゆる条件を総合的に判断して奥穂高岳登頂に向けて進んでいきます。





09時09分
穂高岳山荘から奥穂高岳方面を見上げると最初に目に飛び込んでくるのが写真の岩峰帯と最初の雪渓です。
実際、奥穂高岳に登頂する時に一番難関なのはこの部分ではないかと思います。
頑張って涸沢から登頂してきてもこの部分で動けなくなってしまう登山者を数多く見てきました。ましてやアイゼンを装備していて難易度あ上がっているこの時期。無雪期に比べて難易度は数倍にも跳ね上がっているこの稜線。過去の教訓を踏まえて慎重に上がっていくことにします。





09時11分
最初の取り付けがどんなに過酷なところかを表現しようかと思い、カメラアングルを工夫したのですが、あまり説得力のある写真が撮れませんでした。
もちろん、「山を登る」というのはその人の自由であり咎められるものではありません。ですが、すべての人が登ろうと思って全ての山に登れるわけではありません。度重なる訓練を経てようやく登れるような山もあるわけで。

奥穂高岳。特にこの残雪期の奥穂高岳は決して思いつきで登るような山ではありません。自由には責任が伴うということを肝に銘じなければなりません。たとえ安易な気持ちで登って要救助者になっても、救助する側は危険な状況になってでも助け出すために全力を尽くすのです。

登頂後、山荘で休憩している時にも「滑落者が出た」という通報があり、一瞬緊張感が小屋内に走りました。結果的には軽症だったようですが、自分がアタックしようとしている場所がどんなところなのか、救助隊を呼ぶということはどういうことなのか今一度認識していただきたいと思った瞬間でした(当該滑落について詳細は伏せさせていただきます)。






09時21分
最初の岩登りを終えた後に待っているのは写真の雪渓です。
かなりの角度があります。涸沢から登ってきた斜面など比べものになりません。この斜面を滑落してしまう人があまりにも多いのでしょう、斜面の下には滑落防止ネットが張られています。
滑落防止ネットが張られているから大丈夫というのは大間違いです。例えば車にエアバックがあるから衝突しても大丈夫と考える人がいるでしょうか? 衝突すること自体が間違っているのであってエアバアックは最悪の事態を回避するための手段に過ぎないわけです。この雪渓も同じです。滑落してしまったらもう終わり。あとは最悪の事態を回避する可能性を高めるためにネットが張っていあるのであって、この雪渓を確実に登れる経験や技術や知識がある人のみが許される場所なわけです。

話を聞いた限りでは私が登ったこの時間帯と翌日早朝に登った方から聞いた話では雪のコンディションがだいぶ違っていました。わたしが登った(降りた)ときは雪のコンディションがあまり良くなく、ザラメでアイゼンを蹴り込んでもバイルを突き刺しても崩れてしまうような状況でしたが、翌朝はきちんと締まっていたようです。反対に場合によっては凍結していてピッケルもアイゼンも効かない時もあります。





09時30分
最初の雪渓を登り終えるとなだらかな(あくまでの穂高の稜線の中では)な登りになります。雪は全くありません。例年なら雪上を登っていくのですが雪は全くありません。アイゼンワークに慣れていない方なら相当苦労すると思います。

アイゼンを付けて岩の上を歩くと慣れていな場合思わぬところでアイゼンの爪を引っ掛けしてしまい転倒の原因となってしまいます。この稜線で転倒すると即滑落という箇所もありますので、よく念頭に置いておいた方がいいとおもいます。

「アイゼン外したよ」とおっしゃった方と出会いました。いいも悪いも言いませんでした。雪渓がありますよね?と聞き返しましたが、「すぐにアイゼン付けられますから」とおっしゃったので特に何も言いませんでした。あくまでも自己責任です。






09時36分
穂高岳山荘(白出のコル)から少し登っただけですが、一気にこの景色になります。
涸沢岳がほぼ同じ目線に見え、北穂高岳が右手に、槍ヶ岳がはるか遠方に見えています。穂高岳山荘から反対側に登る涸沢岳はほぼ雪なしで登れるとのことです。
こうやってパッと見ただけでも雪が少ないというのは一目瞭然です。





09時36分
ところどころに雪が残っていますが、登山道上に雪はありません。
冬道の名残がありますが、確実に穴が開くのは目に見えていますしトレースもありませんのでアイゼンをガリガリさせながら夏道を進んでいきます。

天気予報では晴れだが稜線は風が強いとされていました。ですが実際は無風です。話を聞く限りでは朝早くは風が強かったようです。念のためにジャケットを着ていますが暑いです。着ない方が良かったかもしれません。





09時52分
こちらも夏道と冬道に分かれるところです。
結局は自己判断なのですが、アイゼンを履いていても確実に夏道が有利と判断できるので右側の夏道を行くことにします。
冬道はそれで楽な場合がありますが、場合によっては雪庇を踏み抜いたりする危険もありますから安易に考えるべきものではありません。その辺は冬季西穂高岳の稜線でだいぶ勉強させていただいた教訓があります。





09時58分
基本的に雪はありません。写真のような岩のルートをアイゼンを付けて進んでいく技術が必要です。アイゼンを外すという選択肢もあるかもしれません。先ほども書きましたがそれはその人の自己判断自己責任です。ある意味今回のような条件の場合、雪渓以外はアイゼンを外した方が正解なのかもしれません。いや、何が正解というのはないのかもしれませんね。
私は冬の西穂高岳も登るのでその場合、岩と雪のミックス地帯を越えていかなければならずその経験があるためどうしても安易に雪がないからといってアイゼンを外すことはできずアイゼンを装備したままガリガリさせて登っていきます。





10時05分
そして二番目の雪渓に到着しました。
写真の右側に行けば行くほど斜度がきつくなるので、左側の多少斜度が緩い場所を登っていきます。トレースが付いているのがわかるでしょうか。これがあるとかなり楽です。通常、こういう場所は蹴り込んで足場を確保するのですが、すでに蹴り込んだ後があるので足場の確保が楽です。
あとは両手のアイスバイル(普通はピッケル)で3点確保をしながら慎重に登っていきます。西穂高岳の山頂直下と比べると多少楽ではありますがそれでも緊張感が走る場所です。確実に確保をしながら登ります。





10時14分
二番目の雪渓を登った後に現れるのは「間違い尾根」との分岐です。
名前の通り、下山するとき間違えて直進してしまい間違い尾根に入り込んでしまい遭難する登山者が後を絶ちません。
今日のような天候でも周囲に気をつけていないとうっかり直進してしまいそうになります。実際は写真の箇所で右に曲がって雪渓方面にいかなければなりません。
これがガスっていて視界が効かない時は本当に間違って直進して間違い尾根にに入り込んでしまいます。そちらの方が正しいルートと錯覚してしまうのです。雪渓方面は単なる崖に見えてしまうんです。まさに天国と地獄の境界線です。





10時20分
間違い尾根の分岐を超えたら後に待ち受けるのは栄光ある頂上です。

さあ、栄光の頂上に向けて最後のステップを刻みましょう。

その前に、頂上直下は凍結していてその上にうっすら雪がかぶっています。今更スリップして滑落したら泣くに泣けません。最後の最後まで気を抜けません。
途中にジャンダルム(西穂高岳)方面への分岐点があります。もちろんジャンダルムは見るだけです。たとえ夏の時期でも馬の背のナイフリッジを超えていく勇気はありません・・・





10時23分
奥穂高岳登頂。
2016年春。今年は春の奥穂高岳に登頂できました。
しかもこれ以上ない好天。
空気も澄んでいて遠くまで見渡せます。




朝一番ではありませんが10時過ぎのこの時間であってもモヤがかかることなく遠くまでクリアに見渡せます。日本で三番目に高い場所(富士山、北岳に次いで。南アルプス間ノ岳とは再測定後同じ標高)です。
この写真から見える峰々は全て今自分がいる場所より低いんです。優越感がありますね。





定番のジャンダルム。
今日も威風堂々とそびえています。
「来れるものなら登ってこいよ」と挑戦されているようです。
最近気になるのは、さも簡単にジャンダルムに登るんだというような会話が聞こえてくることです。実際は先ほども書いた「馬の背」という難所を越えていかねばならず、決まったルートがなく自分でその瞬間に最善のルートを選択する能力がなければなりません。もし一般の登山者が踏み入れることができるような場所であればそのように地図に書いてあるでしょう。もう一度信頼できる地図をよく見てください。なんて書いてあるでしょうか?





上高地を見下ろします。
よく見ると河童橋付近の赤い屋根が見えます。
左に霞沢岳、遠くに乗鞍岳そのもっと奥に御嶽山が噴煙を上げているのが見えます(HP用にダウンサイズした画像では見えないかもしれませんが)。
麓はすっかり春なんだというのがよくわかります。





前穂高岳とそこに続く吊尾根です。
例年に比べると雪が確実に少ないですが私のレベルの人間が足を踏み入れることができるレベルではありません。
HP用の画像では見えるかどうかわかりませんが右上にははるか遠くに富士山が見えています。ここまで見えるというこはよっぽど空気が澄んでいるということでもあります。
こちらの方面は雪が消えてきた7月終わり頃に踏み入れる予定です。





11時50分
頂上を満喫したら、慎重に穂高岳山荘(白出のコル)まで降りてきます。
今日の宿泊はこの穂高岳山荘。
もう何回めになるでしょうか。数え切れません。

早速チェックインをして、飲み物とカレーをいただきます。
食後、部屋で横になっていたら寝落ちてしまったようです。





今回案内された部屋は初めて飛騨側(笠ヶ岳側)の部屋でした。
なんと部屋の窓からは笠ヶ岳の稜線がばっちり見えていて感激してついつい一枚撮ってしまいました。





一眠りしてロビーに降りていき書物(漫画・・・「岳」・・・)を読んでいると、山荘スタッフの方々が集まってきました。
なんと、ロビーに置いてある暖炉、入れ替えて今日初点火式なのだそうです。

素晴らしい瞬間に客第1号として立ち会えることになりました!!

色々ありましたが無事、次世代暖炉として部屋を暖めてくれて感激です。これからずっと穂高岳山荘のロビーを暖めて登山客にくつろぎの場を与えてくれるのですね。記念すべき発点火に立ち会えて幸せです。





そうこうしているうちに夕食の時間になりました。
この時期にこの山荘にくる人は限られていますが、それだけに内容の濃い? 会話をすることができました。イタリアからパワフルな方もいらっしゃって色々お話できました。今朝蝶ヶ岳を出発しそのまま横尾に下山、すぐに登り返して穂高岳山荘まで登ってきたそうです。すごいですね・・・

食後も気の合う方々と一杯やって盛り上がりました。そんな大した話ではありませんが同じ山好きな人との会話ってなんだか盛り上がるんですよね。何人かの方は翌日の下山で横尾まで抜いたり抜かれたりなどしてとても良い出会いとなりました。

気がつけば日没の時間。残念ながら今日は雲が出てしまい夕日はお預け。また次回に期待することにします。






07時01分
翌朝。
皆、奥穂高岳に登頂するようです。
私は昨日登頂を果たしているので下山のみです。支度を済ませて慎重に涸沢に向けて下りていきます。
きちんとキックステップで蹴り込んで足元を安定させながら下りていきます。
すでにこの時間に穂高岳山荘まで登ってきている人もいました。今日も雪面は凍る事無く、崩れる事無く大変コンディションが良いです。

下山は順調。涸沢小屋まで約1時間で降りてきました。

涸沢小屋で昨日一緒に飲んでいた方々3名と合流。簡単な会話をして、一番歩くのが遅い私が最初に下りていきます。


今年の春の穂高はあらゆるコンディションに恵まれ大成功でした。
多くの方々と出会う事ができ大変充実した登山でした。

出会った方々、大切にしていきたいです。日常の生活や立場は違いますが同じ穂高という山でつながっているということが、なんていうかとても頼もしいです。

充実した思いを胸に山を後にします。今回もたくさんのドラマが生まれました。

ありがとう。



2016年5月14日




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