穂高の春2017(第2部)


天候が回復した二日目。苦労して稜線まで登ります。
ところがそこで待っていたのは、奥穂高岳の取り付け部分の凍結。2箇所ある雪渓が困難箇所ですが凍結していない限りは自分の技術ではクリアできるレベルです。ですがその手前の岩場が凍結していてはお手上げ。ハシゴも真っ白に凍ってしまっています。





07時57分
前穂高岳と吊尾根が綺麗に見えています。
やはり昨年と比べると雪が多いのが一目瞭然です。昨日雨(雪)が降ったせいでしょうか。雪面が真っ白で綺麗です。
空を見て見ると青いキャンバスに白で薄くなぞったような感じの巻雲が描かれています。これが吉と出るか凶と出るか。少なくとも明日は再び天候が崩れるというのはわかっています。
ま、明日のことはともかくまずは今日登頂を果たすべく稜線に向けて登っていきます。






08時09分
北穂高岳が見えて来ました。こちらは夏に登る予定ですがこの時期の北穂高岳からの眺めも絶品だと思いますのでいつかはこの時期に来たいななんて思ったりします。北穂と奥穂、両方登る人も結構いるようなので時間が取れればやってみようかななんて思ったりします。
しかしどちらを向いてもデブリが目立ちます。今日も注意しないと新たな雪崩が起きるかもしれません。






08時27分
ザイテングラート下部まで登って来ました。この部分は翌日は雪崩ていてデブリと岩の間のわずかな隙間を降りていきました。
この部分はまだ斜度は落ち着いています。とは言っても横尾から涸沢までの行程に比べればかなりの角度ですので自分のペースに速度を調整して登っていきます。
連休中につけられたトレースはすでに降雨(降雪)によってリセットされています。ただ、数名が先行しているおかげで新たなトレースがつけられており、多少楽させていただきました。






08時40分
滝谷ドームから涸沢槍の稜線がだいぶ近くになって来ました。大キレットに比べると一歩譲る部分がありますが、それでも穂高の中でも難路の一つで、毎年この稜線を踏破するのが醍醐味の一つになっています。
今はまだまともに歩けるような状況ではありませんね。





08時45分
さて、ここでトレースは二手に分かれます。少しわかりづらいかもしれませんが右手のザイテングラート(岩場)を登っていくトレースとそのまま真っ直ぐ登っていくトレースがあります。
登りながら考えましたが、これだけ雪崩が多いことを考えザイテングラートを登っていくルートを取ることにします。





08時56分
ザイテングラートは基本岩場の直登なのですが、この時期は雪に覆われているので岩と雪のミックス状態をアイゼンで登っていく必要があります。
ただし今回は融雪が進んでいてズボッと落ち込んでしまう場所が非常に多く、むしろザイテングラート本体ではなくすぐ横を上がって言ったほうが楽だったように思えます。





09時06分
この部分は夏季ルートだと右手に巻きながら岩を登っていきます。今日は3人組の先行パーティーが左右二手に分かれて登っていますが明らかに左側の雪壁から登っている方々は苦戦しているように見受けられますので私は夏季ルートをなぞって岩場を登っていきます。後ほど話を聞くとやはり雪壁が崩れてしまい(ラッセル状態だったと思われる)大変だったとのこと。
今日のようなコンディションではザイテングラート本体は融雪が進みすぎて困難だが、雪崩の危険性もあるため結局のところザイテングラートのすぐ脇を直登したほうがよかったかもしれません。





09時54分
穂高岳山荘(白出のコル)到着。2時間を少しオーバーして到着です。ザイテングラートで苦戦した分、2時間弱で到着した昨年より時間がかかりました。
穂高岳山荘もまだまだ雪の中に埋まっているというイメージです。今自分がいるのはちょうど山荘の屋根と同じくらいの高さなのです。しかも穂高岳山荘は2階建。ということはそれだけ積雪しているということです。
自然の脅威というやつですね。





09時54分
そしてこれから登る予定だった奥穂高岳方面の取り付きを見て見ると・・・

え?

完全に凍結しているではないですか。

しかも写真左側の信州側、つまり日が当たる方は黒い岩肌が出ていますが写真右側の飛騨側は真っ白に凍結しています。面白いくらいその差がはっきり出ています。

今朝一番最初に登った登山者は岩場に少し取り付いたが凍結ですぐに戻って来たとのこと。

その上の雪渓を見て見ると、若干名残のようなものは確認できるもののトレースは消えてしまっています。

しばらく考えますが結論を下します。


凍結のため奥穂高岳登頂を中止


雪渓まで行ってしまえば問題ないですが(雪面が凍結していたらアウト)、そこにいくまでのリスクが非常に高いこと。つまり岩が凍結しているということはホールドできないので3点確保ができないということでもあります。完全なる岩場なのでピッケルで確保するような雪面もありません。気のせいか鎖が若干増えたようにも見えますがそれでもルートの全てに鎖があるわけではありません。

これがソロ登山の限界であると認識し、今回奥穂高岳はここで中止としました。
なお、午後になって二人組の登山者がザイルとアンカーで確保しながら降りて来たのを見ましたが、逆にそれくらいのことをしないと困難な状況だったということです。




10時13分
さて、どうしようかと考えていて、ふと反対側を見ていると・・・

あ、そうだ! あなたを忘れていた!

奥穂高岳ということばかり頭にあり、反対側の涸沢岳の存在をすっかり忘れていたのでした。穂高岳山荘から涸沢岳はとりわけ困難な箇所はなく普通に上り下りすることができます。なので今回は涸沢岳に目的地を変更することにします。





10時37分
休憩後、涸沢岳へ登り始めます。
昨日降雪していてトレースがなく登山道があまり明瞭ではありませんが、それでもよく周囲を見渡せば道になっている部分がわかるのと、要所要所にマークがされているため迷うことはありません。
岩という岩に海老の尻尾ができていて昨晩は吹雪だったのだというのが見て取れます。





10時49分
山荘方面を振り返って見ます。
こうやって見ると穂高岳山荘というのはすごいところに建っているんだなというのがわかります。この山荘のありがたさが本当にわかります。
奥穂高岳への稜線上のルートを見て見ますがやはりトレースは全て消えています。
雪質はわかりませんが見た限りではラッセルも必要なのではと思わせる部分もあります。やはりソロ登山では限界を超えた状況であることは間違いありません。





10時53分
涸沢岳登頂。
もはや山頂の道標かどうかもわからない姿となっていますがとにかく涸沢岳です。厳冬期の西穂でもこれだけ海老の尻尾が成長するのはあまり見ません。それだけ昨日の吹雪が凄まじかったのでしょうね。





靄がかかってしまっていますが槍ヶ岳までの稜線が見えます。





北穂高岳(南峰)と左側は滝谷ドームです。滝谷の切れ落ちた崖の一部分が見えています。滝谷ドームからは夏に縦走する奥壁バンドと呼ばれる難路も見えています。





奥穂高岳(中央やや左)と右のほうにはジャンダルムが見えています。こうして見ると奥穂高岳からジャンダルムに至る稜線がいかに困難な道のりなのかがよくわかります。





大キレットが見えます。言わずと知れた穂高の一般登山道の中でも超難度の稜線です。一度は踏破しましたが再度挑戦するかどうかはわかりません・・・






大天井岳〜常念岳〜蝶ヶ岳の稜線が一望できます。こちらの稜線はだいぶ雪が少なくなって来ているようですね。






ジャンダルムのアップ。
真っ白になっています。季節が逆戻りしたかのようです。


※※※※※


さて、長居しすぎて冷えて来たので山荘まで降りることにします。

本来でしたら、明日は再び雨(稜線は雪)になることがわかっているので、今日のうちに安全な涸沢まで降りるのが普通です。
ですが本日は穂高岳山荘に宿泊することにします。

「どうしても泊まりたい小屋がある」

一言で言えばそういったところでしょうか。うまく表現できないですが。
決して山小屋に甲乙つけるわけではありません。私は山小屋の評論家ではありませんしそれぞれ山小屋には良さがあります。
ただ、気象条件とかで山に登れなくても小屋に泊まれただけでも十分満足と感じるんですね。冬にお世話になっている西穂山荘とかもそうです。吹雪で引き返したとしても小屋で過ごす時間にプレミア感を感じるんです。
ですので穂高岳山荘で過ごす特別な時間が自分にとってはもう一つの醍醐味でもありますので、気象条件はわかっていても今日は穂高岳山荘に宿泊です。






さて、本日の穂高岳山荘の宿泊者はある程度は予想していましたが、またまた私一人のみ。ここでも貸切状態です。
しばらく暖かな図書室で一杯やりながらくつろぎます。
夕食はこれまた山小屋の食事とは思えない豪華さ。美味しくいただきました。

食後はまたもや図書室で本を読んで過ごします。





06時36分
翌朝は予報通り雪でした。
山荘にお礼を言い外に出ます。膝上くらいまで積もっているでしょうか。装備は冬山と同じ装備をしています。冬山用のハードシェルジャケットとインナーにフリースを着用して体温低下を防ぎます。5月であっても穂高の稜線上は普通に冬の気象条件になります。





06時37分
この写真を撮った時点では視界があり取り付けの岩場まで見えましたが、出発準備をしているうちに完全にホワイトアウトしてしまいました。
積雪のため昨日つけられていたトレースは完全に消失。
足元しか見えません。雪崩の危険を回避するため、あずき沢は避けて降りることにします。目標ルートはザイテングラートの左側(涸沢に向かって)の側面。これは万が一雪崩が発生した時の回避率を高めるため。

今はホワイトアウトで周囲が全く見えませんが、実際はものすごい急な角度の斜面を降りていくことになりますので、転倒したらアウト。なのでキックステップで蹴り込んで足場を安定させながら確実に降りていきます。それでも足場が崩れてズルズルっといってしまうことが多く手応えを感じます。

ザイテングラートのすぐそばを降りているつもりでしたが、実際は予定ルートより左に行きすぎていることがわかりましたので修正します。





07時41分
視界に入るのは雪崩後のデブリだけです。写真は一瞬稜線に向けて(上向き)にとった写真に見えますが実際は下に向けて(涸沢方面)とった写真です。そう、気をつけないと自分が今どっちに向けて歩いているかわからなくなってしまいます。

雪崩には神経を使っているつもりですが後ろを振り返っても視界がないので、雪崩が自分に向かって来ていたとしても見えません。
涸沢に近づくと多少は視界が広がりましたがそれでも数十メートル程度でしょうか。涸沢小屋を目標に降りていたのですが、そろそろ着く頃だろうと思っていたにも関わらずいつまでたってもそれらしきものが視界に入って来ません。もしかして小屋を過ぎてさらに下までいってしまったか? と思い少し登り返しました。一瞬視界が回復し、現在位置が把握できました。正しい方向に向かっていることがわかりましたので微調整をして涸沢小屋に向かいます。





08時03分
涸沢小屋到着。
雪はすっかり雨に変わり、気温も冬山装備では不向きな状況でした。誰もいない小屋で着替えをし、春山用の装備に入れ替えてから横尾に下山して行きます。

低域まで雲が出ているようでかなり下まで降りないと視界が完全に回復しませんでした。

本谷橋まで降り、アイゼンを外しピッケルをしまい、雪と地面が交互に出現する登山道を降りて行きます。

横尾には10時過ぎに到着。

今回は、春山の全てが濃縮されたような内容の非常に濃い登山となりました。
ただ、お気付きのように一部判断に疑問が残る部分があったのも事実ですので、今後に活かせるように分析して行きたいと思います。

当初はどうなるかと思いましたが、まずまずの春の登山だったのではないかと思います。


お読みいただきありがとうございました。





2017年5月11日〜13日



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