冬の西穂(2017年2月13日)


2月の中旬といえば北アルプスでは完全なる厳冬期。そしてニュースでも報じらていたように強烈な寒波の影響で西日本や北陸の日本海側では記録的な大雪となりました。
その中でも穂高連邦はそれほど大雪とはならず、情報を収集した結果今回は登れると判断。
恒例の誕生日の朝を西穂山荘で迎えるという「バースデー登山」は今年も見事に成功しました。





11時38分
ロープウェイ終点の千石園地は見違えるほどの積雪でした。
準備をしていると「(山頂まで)どれくらいかかるんですか?」とお声かけいただきました。1時間くらい登ると山荘があって今日はここで宿泊、明日の朝アタックすること説明します。薄着なのを心配されていたので、重い荷物を背負って登ると逆に熱くなるんです。といった会話をします。

心配なのは降雪後なのでトレースがあるかどうかということでしたが、これはすぐに解決しました。千石園地を出て登山道に入った直後、偶然にも山荘のスタッフとすれ違いました。ご挨拶をして、「・・・ということは山荘までトレースがありますね!」「大丈夫ですよきっちり付いています」とやりとり。今夜はお世話になりますとお話しし、先へ登っていきます。





11時52分
トレースはしっかりしたものが付いていますが、とにかく積雪量がハンパないです。これがもしラッセルだったらと思うとゾッとします。
雪質はサラサラでアイゼンがあまり効きません。ロープウェイ終点の地点で氷点下15度ですから、このような時は歩き辛いです。乾雪っていうやつですかね。

ロープウェイ終点で氷点下15度ということは暴風の吹き荒れる稜線上は体感温度だと一体どうなってしまうんだろうなんて想像します。ちなみに今回独標でiPhoneで撮影しようとして取り出して構えた瞬間に低温でiPhoenが落ちてしまいました。一瞬で携帯電話が機能停止してしまうような気温だということですね。。。






12時10分
いつも定点で撮影している箇所がいくつもあるのですが、この部分は今回とりわけ雪の量が増えたと実感した部分です。山荘から下の樹林帯は風もあまり強くなく雪が降ればそのまま積雪します。なのでまとまった降雪があると登山道の状況は一変してしまうんですね。
ま、ここまで雪が多いと、「雪山に来た」っていう実感が一層出てくるわけですが。
ちなみに稜線は風が強く雪が飛ばされてしまうので同じ降雪量でも雪のつき方は全く異なります。






12時31分
そんなわけで徐々に山荘に近づいていきます。
山荘直下の急登はいつ来ても厳しいですが、今回は気温が特に冷えていてサラサラのパウダースノーが積もっているため、アイゼンがあまり効かず踏み込んでも雪が容易に崩れてしまいます。 普段でも厳しい直下の急登が今回は余計困難に感じます。
ここまで来ればあと一息だというのがわかっていますので、焦らずにのんびりと登っていきます。ロープウェイから山荘まで1時間切るのが目標ですが、それは前回達成したし、今日は行動が少し早めなので急ぐ理由は全くありません。





12時42分
西穂山荘到着。
あまりにも雪が多くて山小屋が雪に埋まっているという印象です。
テント場の方へ回ってみてビクッリ。普段はテント場というと一段降りたところにあるのですが、山荘の建物とテント場が雪で同じ高さになっていました。
時々強めの風が吹いてきます。ここで強風だということは稜線は確実に暴風でしょう。もちろん初日はもともと稜線に出る予定はないので早めに小屋の中へ入ります。

ロープウェイ終点で話した通り、ここに来るまでの運動量の多さゆえに汗をかいています。上は冬用のインナーとハードシェルジャケットのみですがそれでも汗かきます。ですが外でアイゼンとか外しているとすぐに冷えてしまいます。なので暖かな山小屋の中に入るとホッとします。

まずは定番の西穂ラーメンをいただきます。これが大変美味しいです。冬山の中にある山小屋という雰囲気もあり美味しさ倍増で、あっという間に食べてしまいます。受付を済ませて荷物の整理や着替えなどをします。今日は人数の関係で個室状態です。





さて、今日の行程はおしまい。
日本酒タイムの始まりです(笑)
今日は難しい本を持って来たのですが、山小屋で酒飲みながら読むものではないなって思いすぐに止め。しばらく外の雪景色を見ながら飲んでいましたが、山荘の図書室から「岳」を借りて来て読みました。酒が進んで涙もろくなっているのか、結構ボロボロ涙してしまい、はたから見れば「なんだコイツ」状態になります。
ま、誰もいなかったですが・・・
夕食まで少し仮眠しようと思っていたのですが、そのまま居座ってしまいました。

さて、明日はどんな天気となるでしょうか。
麓の予報は9時過ぎまでは晴れと予報されています。また冬型の配置が弱まるとも聞いていますが、やはり明日になってみないとわからないので早めに部屋に戻り就寝します。





06時33分
誕生日の朝は見事なご来光で迎えることができました。穂高の峰々から最高のプレゼントです。何よりも嬉しいです。
日の出はだいぶ左側(山頂側)に移動して来ました。これが春分の時期にもなると稜線の陰に隠れてしまい日の出の瞬間というのは見れないのですが、この時期はまだ大丈夫です。

ただし今日は完全なる快晴というわけではなく、山頂方面は雲で覆われていることや天候は下り坂であることがわかっているので、行っても独標までかなと考えます。





07時29分
一通り準備をしていざ出発です。
思った以上に天気がもちそうです。独標くらいまでなら大丈夫だろうと予測します。もちろん急激に視界がなくなることも想定し、天気の移り変わりをよく見ながら判断することにします。
厳冬期の稜線ということもあり、今日もインナーの上にフリースを一枚着ておきます。





07時31分
そして、山荘裏手の丘を登ろうとしたのですが、

「ん〜 トレースないじゃん」

というわけで、はい、胸まで積もった雪のラッセル決定!!

ほんの短い距離なのですが、山荘裏手は吹き溜まるので昨日あったトレースは全てリセット。そして新雪がたっぷり積もってしまうという状況です。
朝一番から穂高の精錬を受けます。でも、こういうことも経験しておかなければいざという時に対応できないので、そういう意味では訓練ができて意義のある登山でした。

なんという前向きな考え方でしょう・・・





07時50分
吹き溜まりのラッセルを抜けて稜線に上がると独標から先の稜線が見えて来ます。雲が多いですが視界はあります。風もこの時期からすれば強くもなく弱くもなく普通です。若干雪が多くなったかな?という感触はありますが、山荘から下の樹林帯の積雪に比べると少ないという印象もあります。
風で雪煙が舞っています。パウダーが乗っている証拠です。





08時00分
西穂丸山到着。
微妙ですが後ろの笠ヶ岳の稜線が見えています。こうやって見ると麓まで真っ白です。記録的な大雪とまではいかなかったもののやはり奥飛騨の界隈はだいぶ降雪したんだなということがわかります。
写真には写っていない左の後ろ側は雪が積もって盛り上がっています。吹き溜まるところは積雪し、風が強いとことはあまり着雪せず歩きやすいという状態です。





08時05分
丸山を過ぎると現れる長い登り。通称「お花畑」。
ここが思ったより登りにくかったです。写真のように雪が乗っている部分はアイゼンが効かず場所によってはしっかり蹴り込んでいかないとサラサラの雪が崩れて余計な体力を使ってしまいます。





08時13分
雪と風は時には芸術的な光景を創り出します。
今回は今まであまり見ることのできなかった光景を眺めることができました。なんていうか雪が波打っているようで、海の波を一瞬で凍らせて斜めにしたような感じとでも言いましょうか。
こういう光景が見られるというのも冬山ならではの楽しみですね。





08時29分
丸山上部の広大な稜線も終わりに近づいてくると一気に狭まって独標へ向けてのラストスパートになります。雲が非常に多いですがまだ天候はもちそうです。
ここまで来れば例え完全にトレースが消えていたとしても行くべきルートが「こっちに行くしかないでしょ」という感じで地形でわかるのですが、細かい部分で判断に迷ってしまう場所はあります。トレースがない状態で登るときは注意が必要ですね。





08時46分
こちら側からだとわかりづらいのですが大きくそびえる独標の手前にあるのが第12峰です。ここからが西穂高岳の岩峰の始まりになります。大小があり、峰を超えて行くものと巻いて行くものもありますが西穂高岳山頂までは12の峰を通過して行くことになります。
何度も書いていますが第12峰はこの時期、峰の上を越えていきます。よく間違って巻いて行く夏道にトレースがついています。今日はトレースは完全にリセットされているので、新たに冬道にトレースをつけましたが、コンディションからしてすぐ消えてしまうと思います。






08時48分
西穂高岳独標です。
こうやって見ると存在感があります。
西穂高岳の稜線でどの峰が難しいのかという点については、人それぞれだと思いますので、どの峰が一番技術的に困難だという言い方はしませんが、それでも独標は比較的技術的に難所のように思えます。
とりわけ途中の鎖から上の部分は雪質によっては相当困難を強いられることになります。さて、今回はどうでしょうか。ここまで登って来た中ではあまり好条件は期待できないように思えます。





08時54分
独標に取り付きます。
真っ先に感じたのは今までよりも雪が多いということです。写真でわかるかどうか微妙ですが、写真右上の岩に「←→」という矢印がついています。この岩に鎖がかかっており左側に巻いて登っていきます。この鎖の部分までは特に通常の独標のレベルに対して困難な要素はありませんでした。
が、鎖から上に来てみると予想が的中しました。本日は雪の状態が悪いです。いわゆる崩れるタイプ。それでもサラサラの雪の下にはしっかりと締まった雪の層があるので、きちんと蹴り込めばアイゼンの前爪で足場を確保することができます。もちろん前爪のないアイゼンでは無理でしょうね。

鎖から上のほんの短い距離ですが、蹴り込みながら登るのでキツイです。アイスバイルでダブルアックスにすると楽なのですが、今シーズンから訓練にならないということで緊急時の救済措置のみに使うこととしているため、持って来てはいますがあえて使いません。あくまでもピッケルを活用して3点確保で登っていきます。





09時00分
西穂高岳独標登頂。
周囲を見渡すとかろうじて視界が効くかなという程度。
それでも当初は天候が良くないと予想していて丸山まで行ければいいかなという認識でいたので、ご来光を見れて独標まで来れたというだけでも大変ありがたいことです。
ピラミッドピークを見てみると手前の難所となる雪壁やその手前のトラバース部分は全くトレースがありません。独標直下でこれだけ雪が崩れて困難な状態であることや、やはり天候が崩れ始めていることを踏まえて今日は独標で引き返すことにします。

今年の誕生日は雪山で迎えることができました。
最高のバースデーにすることができました。







今日は視界が悪く乗鞍岳が見えないがそれはそれで幻想的な光景だった







奥穂高岳や前穂高岳は雲の中だった







手前の小高い丘のてっぺんにロープウェイの終点がある。そこから山荘まで尾根伝いに登山道をなぞるのがわかる。





2017年2月13日




登山記録トップへ
ブログトップへ

Copylight 2015-2016 Myclimbing Report All Right Reserved.