冬の西穂(2016年12月30日)


2016年の登り納めとなった今シーズン3回目の冬季西穂高岳は天候に恵まれたものの、西高東低の気圧配置による強風に終始悩まされる結果となりました。
コンディション的には頂上まで行ける状態でしたが、出発時間を遅らせたこともありピラミッドピークで引き返してきました。





12時57分
最近は時間を調整して正午ごろにロープウェイの山頂駅に到着するようにしています。
なので、写真の山荘間近の急登部分に差し掛かるのはこの時間になります。
少し前に雨が降り、その後降雪したとのことでしたので多少心配していたのですが、思った以上に雪の状態は悪くなく、楽をして登ることができました。





13時11分
西穂山荘到着。
写真には写っていませんがテントサイトは所狭しとテントが設営されています。
ある程度は覚悟していたのですが年末だけあって今日は人が多いです。それでもいつものように外の吹雪を見ながら日本酒で一杯。

ちなみに今回初めて本館に宿泊しました。
いつも自分が宿泊する時は人が少ないので(あえて少ないタイミングを狙っているのですが)部屋は別館だったのですが、今日は人数が多いので本館に案内されました。なんだか新鮮な気分です。

夕食も本館の食堂でいただきました。今更ですが、こうやって見ると西穂山荘も広いんですね。普段本館に立ち入るのってトイレに行くときくらいしかなかったものですから・・・

夕食の際に、支配人から明日の天候について解説があります。話を聞いていると明け方までは吹雪くものの8時くらいからは回復し午前中には快晴になるとのことでした。これは期待できますね!! 解説が終わると食堂から一斉に拍手が沸き起こっていました。





08時15分
翌朝です。
ご来光は期待できそうにないので朝食を食べた後、少しゆっくりします。
8時に出発することにしたので、時間になったら準備を済ませます。
今日は風が強いとのことでしたので重装備をします。実際稜線に出て見ると今まで経験した冬の西穂の稜線の中で1位2位を争う風の強さで、厳冬期の北アルプスらしさを実感することになりました。

さて、稜線の方を見上げて見ると予報どおり天候が急激に回復しているのがわかります。今日は時間が経つほど天候が良くなるので急ぐ必要はありません。体力を温存するためにゆっくりと登り始めます。





08時16分
前回は怒涛のラッセルだった山荘裏手も今日はしっかりトレースがついてます。全般的にパウダーが乗っていますが、すでに多くの登山者が登って行った後なのでしっかり踏み固められていてとても楽です。「雪のコンディションによってこんなにも差があるんだな」と実感させられます。これが冬山の醍醐味でもあるわけです。





08時21分
稜線に出ると案の定というか予報通り強風に煽られます。しかもまっすぐ立っていられないほどの強烈なやつ。もちろんこの時期にはごく当たり前のことなのですが、いざ暴風を受けるとかなりのストレスになります。
とりわけ第12峰から先は強風でバランスを崩すと即滑落になる場所も多いので慎重にならざるを得ません。
風さえ落ち着いていれば今日は最高のコンディションだったのですが・・・ ま、これも冬の穂高の現実ということで。





08時26分
そして山頂方面を見上げると一段と白くなった稜線が見えてきました。
最初はまだガスがかかっていてあまりよく見えなかったのですが、次第にガスが抜けてきて遠くまで視界が効くようになりました。
写真ではわかりづらいですが、相当の数の登山者が独標に向かっているのがわかります。さすがは年末ですね。





08時32分
丸山到着。
まるで煙幕でも張られたかのように後ろの笠ヶ岳の稜線が隠れています。
この丸山付近は風の通り道なのでしょうか。風がある時はこの近辺が特に強烈になります。風がない時は一休みするのにちょうど良い場所なのですが、今日みたいな日はとっとと先へ行った方がいいです。
なので、写真を撮ったらすぐに先に進むことにします。





08時37分
丸山から先の広大な斜面(お花畑)はすっかり雪の下になりました。
トレースがある部分は思ったよりしまっています。おそらく風が強くて昨晩の雪は飛んでしまったものと思われます。
反対にトレースがついていない部分は少し前に降った雨の影響か表面が氷になっています。もちろん氷の層は薄いので軽く踏み込んだだけでアイゼンの刃は刺さるのですが、トレースを追って行った方が確実に楽なので楽な手段を選びます。





08時44分
表面が氷となっていて、太陽に照らされてテカテカ光っています。
先ほども書きましたがまだ氷の層が薄いので万が一の時でもピッケルで止めることができますが、これが春先になり氷の層が厚くなるとピッケルが刺さらなくなる可能性もあります。

写真はトレース外の部分ですので、普通にトレースを追って登っている分には踏み込むことはないですが、気象条件によってはいきなりこのような状態になることもあり得るので、万が一のためにもピッケルを使うのが合理的です。





09時01分
丸山上部のお花畑も終わりに近づいてくると、広大な稜線が一気に狭くなります。
ここら辺まで来ると強風も少し和らぐことが多いのですが、今日は全く和らぐ気配がありません。飛騨側からの強烈な暴風がずっと変わらず吹き続けています。
強風で雪があまり積もらなかったのと、先行者のトレースのおかげで足場だけは良い状態で登れるのが唯一の救いです。





09時01分
そして稜線に目をやると独標〜ピラミッドピークまでが一望できます。
独標を見るとこれでもかというほどの大人数があの狭い場所に立っていて「なにこれ珍○景」的な雰囲気を醸し出しています。
このままのペースで行くとちょうど独標の直下ですれ違わなければならないので、わざとペースを落としてゆっくり登ります。あの人数とすれ違うには少しでも広い場所の方が良いと思うので時間調整です。





09時17分
第12峰は夏道にトレースがついていました。
今日のような風が強い時は巻いて行った方が良いのかもしれません。私はあえて峰の上を行く冬道で行きました。こちらの方が慣れているので風が強くても冬道を使います。それに独標から先は問答無用で暴風が吹き荒れる峰の上を越えていかなければなりません。

さて、第12峰から独標にいる人達を確認します。
独標を下山し始めているのですが、恐らく冬山経験があまりない方々なのでしょう。ザイルで結ばれていても怖くて動けない状態で、いくら待っても全然進まない状態でした。最初の数名でこんなに時間がかかるのであればこれから降りる想定30名程度全員を待つのは時間的に不可能です。それに相変わらず暴風が吹き付けているのでこれ以上停滞すると体温も下がってしまいます。

なので、止むを得ず独標の途中ですれ違うことにします。
独標の鎖がある箇所から上の部分で動けなくなっているので、鎖までは普通に登り、そこから先は動けない人を左側に避けて登ります。結局は私がピラミッドピークに登頂し、折り返して第9峰あたりに戻ってもまだ最後の人たちが残っていました。





09時36分
西穂高岳独標登頂。
相変わらず周囲は雲で覆われています。この西穂高岳の稜線だけが雲から出ているのでしょう。これはこれで幻想的ですね。

さて、今日は風は強いものの足元のコンディションはそんなに悪くないので、ピラミッドピークまで足を伸ばすことにします。どっちみち下山に時間がかかっていてすぐには降りれないので待っているよりはピラミッドまで行ってきた方が良いだろうということもあり。





09時42分
写真は第10峰の山荘側(飛騨側)です。
ここは春先は氷になっていることが多く、今回は雨が降った後ということもありかなり心配していた部分だったのですが、いざ蓋を開けて見ると普通に雪が締まっていて何の問題もなくクリアできました。





09時45分
第10峰到達。
こうやって写真を撮っていられるような状況ではないのですが、頑張って一枚撮りました。ピラミッドピークを見ると丁度先行者が取り付いてるのが見えます。そんなに苦労している様子はないので、コンディションも悪くはないのだと思います。

第10峰から山頂側に降りる時は多少苦労しますが、この時期はしっかり着雪しているので焦らずゆっくり降りていけば普通にやりくりできます。





09時47分
第10峰と第9峰の間の痩せ尾根です。
光の加減でわかりづらいですが、トレースがついている部分は雪庇の上です。見ているだけで怖いです。かといっても左側(飛騨側)はご覧のように谷底まで絶壁になっていますので、どうしても右側を歩きたくなるのは解らなくもないです。ですが実は右側(信州側)は完全なる崖になっているんです。つまり、ここで雪庇を踏み抜いたらアウト。
ここは怖くてもなるべく左側(飛騨側)を歩く必要があります。





09時50分
痩せ尾根を越えた後も難所は続きます。
わかりづらいですが、写真の一番右下が先ほどの痩せ尾根の終点部分です。ここからすぐ上の岩を左手に登って行くのですが、写真をご覧になってもわかるように一歩間違えれば奈落の底まで滑り落ちて行ってしまう危険な場所です。
降雪直後で雪が締まっていない時などは地獄と化してしまいます。
以前は、痩せ尾根の終点部分からすぐ上にある岩が嫌な感じで張り出していて通過に困難を極めたのですが、今回話を聞いたらどうやら崩落したようです。てっきり通りやすいように切ったのかと思っていました。いつからか通りやすくなっていたものですから。





09時54分
第9峰到達。
一瞬だけホッとできます。
この第9峰から第8峰側に降りる部分が少し緊張感がある部分があります。もしかしたら岩が崩落して抜けたのかもしれません。こんなに緊張した覚えがないものですから。





09時59分
さて、お次は第8峰、通称ピラミッドピーク。
名前の通りの形の峰で、その存在感は圧倒的です。
山荘裏手の丘を登ったところから見える一番大きな峰で、よくピラミッドピークを西穂高岳山頂と間違える人がいるくらいです。

第9峰からピラミッドピークまではしばらくの間トラバースをすることになります。雪面のトラバースに慣れている方なら問題ないですが、あまり経験がない場合は少し苦労するかもしれません。第3峰〜第2峰間のような角度のある斜面ではありませんが、それでも谷底まで続く斜面には緊張感が走ります。

トラバースの最後には雪壁が待っています。ここも雪のコンディションによって難易度が激しく変化します。雪が締まっていない場合は上り下りが困難です。一歩踏み込むと今足がある場所よりももっと下まで雪が崩れてしまうような状況になってしまいます。今回はある程度雪が締まっていたおかげで普通に上り下りすることができました。





10時08分
ピラミッドピーク直下です。
文字通りのピラミッドの形をしていますので露出感があり、なおかつ暴風が吹き続けていますので慎重さが求められます。先ほども書きましたが足元が安定しているのが唯一の救いです。





10時15分
ピラミッドピーク登頂。
今回はここまでにしておきます。
先に進んでいる方々もいます。見ていると第5峰を直登していてちょっとびっくりしましたが、もしかして巻いて行くには雪のコンディションが悪いのかもしれません。

今まで、風が強いことはあっても独標から先はそんなに暴風に晒された覚えがありませんでした。ですので終始暴風に煽られた今回の冬山登山はとても勉強になりました。こうやってまたひとつ経験値が増えたというのはうれしいことです。


何度も書きますが、冬山はその時のコンディションによって全く難易度が異なります。条件が良い時はなんの苦労もなく登れてしまいますが、一度条件が悪くなると条件が良い時に普通に登れた場所がまるで地獄のように大変な思いをすることもあります。

西穂高岳は西穂山荘が通年営業していますので雪山経験が浅い人もアッタックしやすいのだと思います。自分もそうでしたから。個人的には初めてアタックする時は条件が悪い方が良いと思います。もちろんとてつもない恐怖を感じる部分もあるでしょう。でもその経験によって冬山に対する慎重さが自ずと培われて行くものです。
遭難事故の多くは「気の緩み」が原因なのだとか。たまたまコンディションが良い時に簡単に登ってしまい「こんな程度なんだ」といった意識でいると、次に来た時のコンディションによっては取り返しのつかない結果になってしまうかもしれません。

最近は雑誌等で雪山について紹介されていることが多くなっています。それはそれで良いのですが、もう少し厳冬期の冬山でのリスクについて啓発していただきたいものです。アイゼンを履いておらず、ピッケルも持っていない人が山荘近辺で稜線の様子を聞いて来たことがありました。どこまで行くか尋ねたところ山頂まで行くと言ったので、腰が抜けそうになってしまいました。西穂の稜線も初めてだとのことでしたので、とりあえず自粛するよう強く提案した上で、どうしてもというなら独標直下まで行って実際にどんなところか確かめて見なさいと言ったことがありました。

冬〜春の穂高はあらゆる意味でリスクが高いということを強調させていただきたいと思います。決して思いつきで登るような場所ではありません。素人集団を連れてくるような場所でもありません。
このようなことを書くと嫌われるというのが一般的ですが、誰かが警告しなければ悲しい思いをする人が増える一方だと思います。雑誌は人に嫌われるような内容はあまり書かないでしょう。

私はたとえ嫌われても正直に書きます。

美しい冬山の風景は、多くのリスクや悲しい出来事の上に成り立っているという事実。



2016年12月30日




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