冬の西穂(2016年11月26日)


今年も雪山の季節がやってきました。
予定日直前までまともな降雪がなく、雪なしの登山になるかと思っていたのですが、2日前に奇跡的な降雪があり西穂の稜線もやっと雪化粧してくれました。
東京都心でも積雪となったくらいですので、相当積もったのではないかと思っていたのですが、想像よりも積雪しなかったようです。アプローチも車道に雪はほとんどなかったので心配したほどではありませんでした。
降雪直後で量も少なかったため、アイゼンやピッケルは全く機能せず。独標直下は非常に難易度が高い状態でした。それでも2日目は天候に恵まれシーズン初の雪山登山は大変素晴らしい幕開けとなりました。





12時38分
初日は天候に恵まれませんでした。
ロープウェイ終点から眺める景色はご覧の通り。
まだまだ雪の量が少ないです。とは言ってもまだ11月ですから当然です。この時期はその年によって全く違います。もっと雪が少ない年もあるし、逆にすごく積もっていることもあります。
今回のようなコンディションであればアイゼンはなくても大丈夫なのですが、あえてアイゼンを装着します。一通り準備を済ませて登山道へ向かいます。





12時44分
散策路の一番奥へ行くと「この先登山道」という警告がされています。ただし普通に歩けて行ってしまうので時々観光客が興味本位で先に進んでいることがあります。
最終的には写真の看板が立っていて、その先は未整備ですのでさすがにここから先に進む観光客はいません。
8ヶ月ぶりの雪の登山道を進んで行くことにします。





13時18分
今回の登山道の状況は簡単にいうと夏道の上に雪がかぶさっている状態です。なのでアイゼンを装備している場合は雪が機能せず直接岩の上をガリガリ歩くことになります。雪で岩が隠れているので慣れていないとバランスを崩したり足をくじいたりしてしまいます。この状態が独標まで同じでした。
それでもアイゼンワークを上達させるために、あえてアイゼンを装備して登っていきます。





13時53分
西穂山荘到着。
まだまだ雪が少ないですね。

予想していたことですが、視界がなく風も強く吹きつけています。コンディションが良ければ丸山付近まで出てみようかと思ったのですが、これでは稜線に出る意味があまりないので今日はこのまま小屋に入ります。

小屋に入り、まずは定番の西穂ラーメンをいただきます。これはいつ食べても美味しいですね。食後は雪景色を見ながら地酒を飲んでまったりした時を過ごします。そう、このゆったりとしたひと時が自分にとっては最高の瞬間なんです。

その後、少し仮眠して夕食の時間になります。本日の宿泊者は2名です。とても少ない人数ですが結果的にはこの少ない宿泊者が天候的に一番恵まれることになったというのは、この時点で想像できませんでした・・・





06時35分
翌朝、起きて外を見て見ます。


雲ひとつない快晴


昨日の天気予報の気圧配置でちょうど穂高近辺に高気圧が来ている予報になっていたので、もしかしたらと思っていたのですが見事に晴れてくれました。ただし、この高気圧が足早に去って行くとも予報されていたので、行動は早めの方が良いようです。

食後、カメラを持って外に出ます。

この時期の日の出は、山荘正面から登りますので完璧な姿でご来光を捉えることができます。やはり冬の凛とした空気の中で見るご来光は一段と美しいですね。





06時55分
さあ、稜線に向けて出発です。
もう一人の宿泊者は焼岳へ向かうとのことでしたので、良くも悪くも稜線に出るのは私一人だけです。
この気象条件なのでフェイスガードやゴーグルといった装備はしません。過去の経験から今日のような場合は逆に暑くなることがわかっているので汗で冷えないように注意します。





06時58分
山荘の裏手の丘へ登る部分は雪が多くて締まっていれば全く問題ないのですが、今回のようなコンディションでは少し苦労します。慣れている方であればアイゼンなしで登った方が楽かもしれません。
何れにしてもアイゼンワークの訓練なので、ガリガリさせながら登っていきます。いつも雪で覆われている状態でしか来ていないので、夏道はこんな感じなんだなって思いながら登ります。
まだ体が慣れていないので無理せずにゆっくり登ります。





07時09分
そして見えて来ました。西穂高岳の稜線。
今日も威風堂々としています。
やはり白い峰に青い空は絵になりますね。今シーズン最初のアタックがこんなに天候に恵まれて本当にラッキーです。
こうやって見るとまだまだ雪が少ないですが、ちょっと前までは全くというほど雪がなかったことを考えると奇跡に近い姿です。
後は登山道のコンディションが問題。とりわけ独標直下で吹き溜まりになる部分があるのですが、その部分がどうなっているか少し心配です。





07時09分
稜線の状態は写真の通りです。
見た感じしっかりと雪が積もっているように見えますが、実際は積もりたてで締まっておらず、雪の層が薄いので、アイゼンの場合は直接岩に刃が当たることになり、慣れていないと苦労します。
飛騨側から風が吹き付けていますが、そんなに強風ではありません。むしろ心地よく感じます。





07時16分
丸山到着。
後ろに見える笠ヶ岳の稜線もすっかり雪化粧をして美しい姿になっています。
丸山を過ぎると長い登りになるので、小休憩するにはちょうど良い場所です。この近辺は普段だと風が強烈なのですが、今日は穏やかな風の吹き方で休憩するにも良いコンディションです。
ただし、予報では天候は下り坂になるとのことでしたので、なるべく早く独標への登頂を済ませたいと思っていましたので、あまり長居はせずに先へ行くことにします。





07時23分
丸山から先の長い登りも雪と岩のミックス状態になっています。
夏道が鮮明に残っていますので、夏道をなぞるように登っていきます。上の方に行くとハイマツの間を登る部分がありますが、積雪期に来るとハイマツの高さを超えて雪が積もっていますので今回はなんだか非常に新鮮な気分でした。





07時45分
一通り登り切ると、独標へのラストスパートが見えてきます。
黒い岩肌に白い雪のコントラスト。まさに冬山の穂高らしい光景ですね。昨日登頂した方々のトレースはすべて消えていますが、ここまで来るとルートから外れることは物理的にないので、あとは不用意につまづいて転倒することがないよう気をつけながら進んでいきます。





07時54分
まだ木の枠がむき出しになっています。この部分は風が強くて着雪しづらいと思われ、積雪期であっても木の枠が出ていることが多いです。
アイゼンの刃で木の枠を傷めないように注意しながら一歩ずつ踏み込んでいきます。





07時57分
さて、ここは夏道と冬道の分岐点になります。
写真をご覧になってもわかるかと思いますが、夏道は左手に巻いて行くルートになっています。対して冬道は稜線上が積雪により安定して歩いていけるようになるので真っ直ぐ登っていきます。ただし雪庇が張り出すので注意しなければなりませんが。

今回はまだ冬道は不安定に思えましたので、左手に巻いて行く夏道を利用させてもらいます。普段と違うルート取りに多少の違和感を覚えつつも慎重にトラバースしていきます。





08時04分
写真で一番大きく見えるのが言わずと知れた西穂高岳独標。その右手前にちょっとした岩峰(第12峰)がありますが、夏ルートと冬ルートはここで合流すると同時にここが最初の難関になります。
高度感ある岩場を上り下りする場所です。もちろん積雪期はアイゼンを装備したまま岩場をクリアしなければなりません。この場所で怖くて動けなくなっている人をよく見かけます。初めて冬季西穂に来たのか、雪山が初めてなのかわかりませんが。ただ、この部分をクリアできないと目前に迫る独標を登り下りするのは困難です。





08時09分
独標直下です。
何度も訪れていると、感覚で正しいルートがわかりますが初めての場合はよく岩をみてマーキングを探しながらルートを定める必要があります。正しいルートには必ずマーキングがされています。マーキングがないし、なんだか登るのに困難を覚える場合はルートを外れていると思った方が良いでしょう。

アバウトな言い方ですが、最初は左に巻きながら登り、右に切り返して登っていきます。クサリ場を経由して最後の難所を越えれば独標登頂です。
このクサリ場を越えた最後の部分が雪質によって全く難易度が異なって来ます。今回は雪が崩れてしまいアイゼンやピッケルが全く効かなかったのですが、このような場合は登り下りが非常に困難になります。逆に普通に前向きに降りていける時もあります。
今日のような条件の場合はアイゼンの前爪を活用しないと困難な箇所もあります。独標は毎年のように滑落者が出たという情報が入って来ます。それだけコンディションによって難易度が激しく変わるということだと思います。






08時22分
西穂高岳独標登頂。
素晴らしい眺めです。
まだまだ低域は雪がないのがよくわかりますが、これも時間の問題でしょう。

今回はシーズン最初の登山ですので無理をせずに独標でストップしておきます。「また来たい」という思いを残しながら下山するのが一番いいかと思いますので。

今日の独標は無風です。とても静かです。稜線を見下ろしますが誰もいません。というか、この時間には宿泊者しか登頂することができません。まさに西穂の稜線独り占め状態。最高ですね。





主峰側を見上げます。一番左はピラミッドピーク(第8峰)、その隣が西穂高岳主峰、ずっと右に行くとジャンダルムとそこから続く吊尾根までが見えています。主峰までの稜線をなぞって行くと、やはり難易度が高いように思えます。
最初から独標で止めるという計画でよかったと実感しました。





真ん中に焼岳、はるか遠くには乗鞍岳が見えています。空気中の水分が多いのか、そのはるか先の御嶽山は今日は見えません。焼岳の左下には今は静まり返った上高地が見えています。






こちらは吊尾根と前穂高岳そして岳沢です。夏・秋の登山の定番ルートです。今年は秋の登山の際の天候が悪く最終日はエスケープしたのでこちら側に来れなかったのが残念でした。





西穂高岳主峰のアップです。
登山道を見てみるとトレースが全くないのが確認できます。
おそらく難易度は最高ランクになっていることでしょう。今の自分の技術では確実に無理です。なので今日は見上げるだけです。



さて、独標からの眺めを味わったら下山を開始します。
頂上から途中のクサリ場までが緊張感があり、久々にブルっとしてしまいました。登る時に自分が付けたトレースを目印にして慎重に降りていきます。

独標と取り付けまで降りるとやっと安心感が出て来ます。もちろん安心して気を抜かないように気を付けます。事故の一番の原因は気の緩みなのだとか。




山荘まで戻り、小腹が空いていたのでカレーをいただきます。
今シーズンもお世話になりますとご挨拶をして、ロープウェイ乗り場に向かって下山していきます。今日は週末で好天ですので予想通り多くの登山者とすれ違いました。想定していたより天気が下り坂になるのが遅かったので、すれ違った方々も素晴らしい景色を味わうことができたのではないでしょうか。


というわけでいよいよ冬山シーズンの始まりです。
厳冬期の西穂高岳は天候に恵まれるチャンスが少ないのですが、それはそれでまた魅力的なものです。

次回来るときはもっともっと雪が深くなっていることを願い、帰路につきました。




お読みいただきありがとうございました。


2016年11月26日



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