冬の西穂(2016年3月26日)第2部


今シーズン冬山の締めくくりとなる今回の西穂。
予報通りの好天に恵まれ、西穂高岳独標まで登頂しました。ここから先の稜線も概ねコンディションは上々のようです。
すでに何人もの登山者が山頂に向けて先行しており、峰の上に立つとその姿が遠くから見ることができます。登っている様子を見ても特に苦労している様子はないので雪質も悪くはないのだと思います。





07時04分
これは独標の裏側(山頂側)です。
何年か前に整備されたこともあり、通常の山荘側の斜面よりも楽に上り下りできます。とは言っても慣れていなければ地獄のように感じる場所でもあり、慣れていても油断すれば一大事になる可能性が十分ある場所です。

今回も慎重に降りていきます。雪も締まっていてトレースもくっきりついてるので安心できます。それだけたくさんの登山者が踏み入れたということですね。





07時06分
ここはお隣の第10峰に登る途中の斜面(飛騨側)です。
通常だと少し高度感があって緊張する程度で典型的な穂高の岩峰なのですが、今回(前回もそうでした)は一部が氷になっていてアイスバイルの歯が刺さりませんでした。氷壁の登攀が目的ではないのでバイルの歯を鋭く削っていないからなのですが、かなり危険な状態でした。
写真では伝わりづらいですが、ここは滑ってしまうと即滑落する場所ですのでかなり緊張感がありました。





07時09分
第10峰に登頂です。
これといって特に何もない小さな峰ですが、この峰は両側とも上り下りが大変です。岩と雪のミックス状態を難なくこなしていける必要があります。独標〜第9峰間は特にそれが求められます。

夏季でも西穂山荘〜西穂高岳山頂は難易度が高い稜線としてランクづけられているほどです。私見ではありますが少なくとも北穂高岳や奥穂高岳に登頂の経験があったほうが良いと思います。 もっと言えば北穂〜奥穂まで縦走経験があればなお良いと思います。






07時12分
さて、第10峰より先を見下ろします。
写真手前の稜線にトレースがついているのがわかるでしょうか?
実はこの部分はナイフリッジとまではいかないものの非常に痩せ尾根なんです。ということはお分かりになる方はわかると思いますが、雪庇が張り出しているのです。なので、怖くてもなるべく飛騨側(写真左側)を歩くように意識しなければなりません。右側を歩いてしまうと最悪の場合雪庇を踏み抜いてしまいます。こうやって写真を改めて見ると怖いところに足跡があるな〜なんて思ったりします。

その先に岩があってさらにその先に鎖がついてるのがわかるかと思います。この鎖の下の岩ですが、通常雪のない(少ない)時期はこの岩の左側(飛騨側)を登っていきます。ですが雪の多いこの時期は岩の右側(信州側)をトレースすることが多いです。左側は意外に緊張感があり大変ですが、右側が通れるとかなり楽です。





07時12分
そして、その上を見上げてみると次の第9峰が見えます。
互いにロープで結んだ先行者2名が確認できます。ガイドとクライアントでしょうか。わかりませんが、何れにしても気を緩められない場所です。

この第9峰まで来てしまえば、断崖絶壁との格闘もほとんどなくなります。あとは一部を除き斜面のトラバースが中心になります。





07時16分
第9峰に到達しました。
この近辺になるとすれ違うのに一苦労です。下山時にここから見ると、下から登ってくる人たちが見えたので、この第9峰の先端ですれ違うことにします。まだ数名なので良いのですが、もっと人が多くなると一体どうするのだろうと思ってしまいます。

このレベルの稜線になると「どっちが優先」なんていう概念はなく、一番安全にすれ違えるのはどこかと考えるのが理にかなっています。あとはマナーの問題ですよね。

漫画の話ではありますが、あの有名な「岳」でエベレストの最後の難関「ヒラリーステップ」で登る側と降りる側、どちらの隊が先にヒラリーステップに取り付くかでやり合う場面がありましたが、結局すれ違い不可能な場所は先行者が優先になるため主人公の隊は酸素の残りが少ない中、ヒラリーステップ上部で足止めされてしまうというストーリーでした。

ここ(西穂高岳稜線)はヒラリーステップとは比べものになりませんが、それでもマナーを守らなければ命にも関わってくる可能性がある場所もありますので、登山者の良識を願うばかりです。





07時20分
そしていよいよピラミッドピークに向けての登りとなります。
まずは雪壁までトラバースで近づいていきます。チャンピオンピーク(第4峰)以降のトラバースと比べると斜度は厳しくはないのですが、それでも失敗は許されない場所ゆえに緊張が走ります。

写真でもトレースがくっきりついているのが確認できると思います。ここまではっきりしたトレースだと安心感もありますが、これは難易度が低くいのでこの状態が当たり前だと思わないようにします。トラバースは登りよりも下の方が緊張感があります。





07時25分
ここがピラミッドピークの難所である雪壁です。
前回も書きましたが独標の最後の部分と同じようなイメージをするとわかりやすいです。今日も雪が締まっていて、おまけにステップもできていたのでとても楽に上り下りできました。降りるときは前向きに降りてくることができたほどです。「これは本来の姿ではない、本当はもっと大変なんだ」と言い聞かせます。それほど難易度が低いんです。





07時29分
雪壁をクリアしてしまえば、あとはピラミッドピーク頂上に向けて登っていくだけです。斜度がキツイのもそうですが、稜線が狭くなるので高度感があります。下から見上げていてもわかると思います。「ピラミッド」というくらいですから当然最後は露出感がハンパないわけです。

先ほどの雪壁の部分もそうですが、ここを登っている姿は独標近辺から意外に目立つものです。今日は誰もいませんが、下山時で人が多い時はまるで壇上にでもいるかのような気分になります。





07時35分
ピラミッドピーク登頂。
雲ひとつない青空に白い峰々が冴えます。
雪のコンディションも問題ありません。先行者は皆西穂高岳山頂に向かっています。こうやってみていると早い人はすでに第2峰を通過しています。

今日は最初からピラミッドピークまでとしています。
前回のアタックですでに西穂高岳登頂を果たしており、今回はシーズン最後で良い思い出を残すために「楽しい登山」を目標にしています。なので100%フルパワーで登頂するというよりも、のんびり楽しくということでピラミッドピークが終点です。

ですが、この光景とコンディション。血が騒ぎます。「やっぱり登っちゃうか?」と考えます。ピラミッドピークの頂上でしばらく「考える人」を演じます。考えているうちに一番早い先行者が登頂を果たしたのが目に飛び込んできます。一度は足が動いたのですが、もう一度行きたいという思いを残して来シーズンにつなげるのが良いという思いが打ち勝ち、ここを今回の目的地とします。






先ほどの独標から比べるとまた一段とジャンダルム〜前穂が近づいたように感じます。今頃はこの向こう側の涸沢も真っ白なんだろうなと想像します。上高地が山開きしたら涸沢経由で奥穂高岳に登頂予定です。

こうやってピラミッドピークに立っていると風も強くなくほとんど気にならない程度です。3月にもなると安定することが多くなるのですね。






こちらは双六岳方面です。
真っ白な山肌が綺麗ですね。穂高が中心なので、なかなかそちらの方面に行くことがないのですが、一度は考えてみてもいいかもしれません。






西穂高岳山頂です。
前回登頂時(と言っても2週間前ですが)と比べてさほど様子は変わらないように思えますが、改めて写真を拡大したりしてみると、新たに雪が積もったのではと感じさせる部分があります。山頂の道標も見えています。また、来シーズン登頂したいです。





前穂高岳と岳沢です。
夏〜秋の登山では定番のルートとなりましたが、この時期は真っ白で静まり返っています。今年の夏や秋の縦走もこの岳沢を利用する予定です。今年はどんなドラマが待ち受けていることやら・・・


さて、今シーズンもお世話になった西穂高岳にお礼を言って、下山を開始します。

時間的には十分すぎるほど余裕がありますので、ゆっくり下山します。急ぐともったいないので雪山を楽しみながら下りていきます。





08時22分
独標まで下山してきました。
少し独標からの眺めを目に焼きつけて、さらに下りていきます。
写真は独標手前(山荘側)の部分です。独標に向かうには写真に写っているように左側にトラバースした後、右上に登っていくのですが、このトラバース部分がコンディションによってはトレースが消えていてキックステップで蹴り込んでいかなければならないこともあり、その時々によって難易度が全然違います。
今回はご覧のように明確すぎるトレースができていてとても歩きやすかったです。





08時23分
こちらは第12峰です。
初めて冬の西穂に来られる方は見ていると、まずこの部分で戸惑っている方が多いです。今まで登ってきた稜線と一気に雰囲気が変わり岩になる瞬間です。慣れてくると次にどこに足をかければいいか自分なりに分かってくるのですが、最初はおそらく足をかける岩すら見えない状況で、「次どこに足をおけばいいの?」っていう状態になってしまいます。落ち着いて行動するのが一番です。





08時32分
途中、下山しながら写真を撮ります。
大正池や上高地が見えます。あと1ヶ月もすれば上高地は山開きになります。今ではその準備が着々と進められているものと思われます。カメラの望遠レンズを最大にしてみると、車が通った跡があったり、河童橋周辺は雪かきされていたりといった光景が見えてきました。





08時33分
焼岳山頂です。活火山の焼岳は今日も噴煙をあげています。
この焼岳のおかげで今日も下山したら平湯で温泉に浸かることができます。





08時47分
さあ、西穂高岳の稜線を楽しむのもあと少しです。
写真をよく見るとず〜っとトレースがついているのがわかります。

今シーズンもいろいろなことがありました。最初の11月末は強風でロープウェイが動いておらず登山口にすら行けずに断念。翌月12月末はクリスマスイベントに参加できて楽しむことができました。天候はイマイチでしたが・・・ 年が明けて1月は予定していた前日に仕事のトラブルで急遽中止。2月も予定していた日から急遽1週間ずらしてシーズン2回目の登山でしたが悪天候のため独標止まり。3月に入り始めて天候に恵まれ西穂高岳登頂。そして今回がシーズンラスト。

山って色々なドラマがあるんだな。そう思いながら降りて行きます。高度が下がるにつれ今まで見下ろしていた場所が自分と同じ目線になってきます。





08時50分
麓は桜が開花しているけども穂高の稜線はまだまだ冬。確かにそうです。でも場面によっては雪が溶けてハイマツが顔を出していて、徐々にですが春が近づいているというのが伺えます。久しぶりの日差しになんだかハイマツも嬉しそうです。こうやって穂高も春になっていくのですね。





09時05分
最後にもう一度稜線を振り返ります。そしてこの光景を目に焼き付けます。
今年の11月まで約8カ月間この光景はお預けになります。
とても寂しいですが、また季節が巡ってきてこの光景を見ることができるのを楽しみにします。今シーズンも色々なドラマが詰まった西穂高岳の稜線でした。





09時23分
そしてついに西穂山荘まで下山してきました。

数えてみたら西穂山荘を利用するのは今回で13回目でした。西穂山荘の皆様には色々な意味でお世話になっており(救助されたこともありまして・・・)冬の西穂登山にはなくてはならない存在です。スタッフの皆様もいつも温かく迎えてくださりとても感謝しております。

中に入って、定番の西穂ラーメンをいただきます。これがなければ冬の西穂は始まりません。今日は最後の締めでラーメンをいただきます。本日は好天で週末でもあるので、予約だけでも限界に近い利用だとのことで(予約なしで宿泊する人もいるので実際は予約以上の宿泊者になる)、大忙しです。そんな忙しい中でも笑顔でラーメン作ってくださり感謝です。

食後少し休んでいて「そろそろ始発のロープウェイに乗った人で早い人は山荘に到着する頃かな」と思っていると、なんと40Kgの荷物を担いだ山荘のスタッフの方が一番最初に登ってこられました。あの有名な西穂山荘の常務・支配人のAさんです。しかもツボ足で。さすがですね〜、簡単に会話させていただき一緒に写真も撮らせていただきました。

さあ、山荘が混雑する前に登山口まで降りることにしましょう。

スタッフの方に今シーズンお世話になったお礼と来シーズンもお願いしますと話し、西穂山荘を後にします。






10時50分
予想通り、ロープウェイ山頂駅に降りて行く途中で非常にたくさんの登山者と出会いました。みんな笑顔です。それはそのはずこんなに天候が良いのですから。きっと楽しい思い出がたくさん増えることでしょう。

ピラミッドピークで引き返してきているので体力的にも余裕があり、しかもたくさんの登山者が行き交うためトレースがしっかり付いていて下山も楽です。ぐんぐん降りて行ってしまいます。

写真はロープウェイ山頂駅を出発し、下りきったところにある開けた場所で、山荘〜ロープウェイ間の道中で一番好きな場所です。暖かな日差しでとても良い写真が撮れました。

ロープウェイ乗り場までたどり着き、アイゼンやゲイターを外します。子どもが近づいてきて「何しているの?」「それ(アイゼン)何?」など陽気に語りかけてきてくれました。「これはね、雪の上でも滑らないようにするためのものだよ」とか「僕も大きくなったら登山靴買ってもらって山に登ろうね」など会話します。

後は国際色豊かなロープウェイに乗って麓まで一気に下りていきます。

こうして今シーズンの冬の西穂は幕を閉じることになりました。



お読みいただきありがとうございました。


2016年3月25日〜26日





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