冬の西穂(2019年2月25日)





天気図通りの快晴となった初日と、予想よりも天候が良かった二日目。
天気が良いというのは登山者にとっては良いのですが、平年に比べて非常に気温が高い状態は季節外れの融雪をもたらし雪崩や土砂災害など不都合な事態を招きます。
西穂高の稜線も季節が2ヶ月くらい進んでしまったのではないかと思えるほどの状況。地球規模の異常気象について考えざるを得ないような状況でした。





11時44分
今日は日曜日で雲ひとつない青空。
新穂高ロープウェイは観光客であふれかえっていました。積雪時に臨時で解放される登山センター前の登山者専用駐車場はすでに満車。少し離れた深山荘前の150台停められる本来の駐車場が解放されているとのことでしたので、そちらへ停めます。ちなみにロープウェイ入り口そばにある観光客用の駐車場は入庫待ちで10台以上並んでいました。

天候が良いとここまで違うのだということに驚きです。もっともこれからの時期は天候も安定してきて賑わいを見せる時期になります。厳冬期の寂しい雰囲気がもう終わりに近づいているわけでなんだか寂しくなります。

あまりの人の多さにロープウェイの増発便が何便も往復し、終点の新穂高口に到着したのがこの時間になってしまいました。





11時47分
例年と比べて気温が非常に高い日が続いたため雨になった時があったようです。
積雪量も例年と比べると少ないのが一目でわかります。
昨日と今日で多くの人が入山したためか、昼前で雪面が十分太陽に照らされて緩んだためか、想像以上に雪面は柔らかかったです。アイスバーンでもなく腐ってもおらずコンディションとしては上々でしょうか。





11時49分
木々の着雪はなく気温が高いというのが一目でわかります。
昨シーズンは寒い冬でしたが、これくらいの時期に雨が降り、その後降雪がほとんどなかったことから雪の量が一気に減っていったように記憶しています。今シーズンはそもそも雪の量が少なく平年よりかなり高い気温が続いていることからすると昨シーズンにも増して雪が少ないのではないかと心配しています。





11時58分
さて西穂高岳の稜線が大変美しく見えてきました。
もはやこの絵は3月の安定期のものに近いです。空の青さといい文句なしの天候です。まあ、こうやって眺めても雪の少なさは目立ってしまいます。ま、それが今シーズンの特徴なのでしょうか。

登るにつれて多くの登山者とすれ違います。駐車場に停めてあった車の数からしてかなりの人数が山に入っていると思います。これからの時期は天気が良いとたくさんの人が入山します。西穂高岳の稜線も活気が出てくる時期になりますね。





12時29分
ここから先は山荘までの登山道で一番斜度が大きくなる部分です。とりわけ冬道の場合はこの部分の少し前まで直登ルートで登ってきますので、ここに到着した時点で既に息が上がってしまう方も多いかと思います。
私も冬道の直登ルートと夏ルートが合流する写真の地点で少し休憩を入れます。

今日はもっと雪が緩んでいるのかと思いましたが思った以上に締まっており大変歩きやすい状況でした。雪面の状況によっても疲労度がまるで違ってきます。おかげさまでロープウェイから山荘まで1時間切るか切らないかのペースで来れています。





12時42分
西穂山荘到着。
多くの登山者で賑わっています。
西穂山荘から山頂往復する場合、自分の場合は6時間を見ています。もちろん個々の技術や体力によって差はありますが、山荘に宿泊して頂上往復した場合は戻るのが今頃になると思われます。
大勢の登山者がザックを置いて山荘内で休憩しています。午後になると雲が出てくるのかなと思っていましたが今の時点では全くの快晴です。まさに登山日和ですね。

さて、明日は今日のような好天は続かないと思っていましたので、休憩後、稜線に上がることにします。





13時09分
今日は景色を楽しむことにし、丸山まで登ることにします。なのでカメラだけ持って登ります。
この時間は降りてくる人がほとんどです。すれ違う登山者の顔はみな笑顔です。こんなに恵まれた天候ですから当然ですね。





13時21分
そしていつもの稜線が見えてきました。
しかし雪の少ないのには驚きです。写真だけ見ると3月下旬から4月初めの写真のように思えてしまします。そして今日はほとんど風がありません。25m/s以上の風が吹いていた前回とはまるで違います。





さすがに朝一番で登った時の澄んだ空気とはいきませんが笠ヶ岳の稜線が美しく見えています。





上高地を見下ろします。
おそらくたくさんのツアーが入っていることでしょう。
遠くに目をやると左手前は霞沢岳、右手前は焼岳、はるか先にある乗鞍岳は雲が湧いてきているようです。





進行方向に目をやると前穂高岳から明神岳の稜線が一部見えています。
なんだか開放感があっていいですね。





13時27分
丸山登頂。
ここで風がないというのはもう冬ではなく春になった証拠です。
天気図を見て大まかには予想はしていましたが、ここまで春の陽気になっているとは正直驚きです。
丸山でもたくさんの登山者が写真を撮ったり景色を楽しんだりしています。一眼レフで写真を撮っているからか、数いる登山者の中から私に「写真お願いできますか?」と頼まれました。今はコンパクトカメラやスマートフォンの性能が良くなったので綺麗な写真が撮れます。

さて、丸山からの眺めを一通り味わったら西穂山荘へ戻ります。
日曜日の宿泊ですからもう少し落ち着いているかと思ったのですが、わりと多くの登山者が宿泊するようです。

考えてみたら今シーズンの冬山は年末に登った時を除き、二日目のアタック日は全て天候に恵まれています。これはこれで非常に珍しいです。通常なら12月初め頃までは晴れる確率が高いですが、それ以降3月の春の陽気になるまでの厳冬期は晴れる日が数えるくらいしかなく滅多に青空を眺めながら登るということはありません。
さて、今回はどうでしょうか?





06時27分
ご来光です。
実は2日目は初日に日本列島を覆っていた高気圧が東へ去る予報だったため、あまり期待はしていませんでした。先に書いておくと、本日は自分が登った時間帯は雲の中に入ってしまいましたが、それ以外はほぼ1日を通して昨日同様の快晴でした。
この時期は一晩で予報がガラリと変わってしまうことも多く、入念な気象情報のチェックが必要ですね。





06時49分
タイムオーバーだった前回の教訓や、日の出の時刻が早くなっているということもあり、今回は食後すぐに準備をして出発します。
朝一番の稜線は新鮮で気持ちがいいですね。空が予想以上に青空なのには少し驚きましたが下から雲が上がってくるのが良くわかります。





06時49分
朝日が西穂山荘を照らしています。
上空は青空ですが標高の低いところは雲で覆われています。おそらく麓から見ると山の上の方だけ雲がかかっている状態なのでしょう。よくあることです。事実、反対側の山頂方面は昨日同様の快晴になっています。
通常だと雲がだんだん上がってきて標高の低いところから徐々に雲に覆われていくのですが、今日はどうでしょうか?





07時00分
雲がフィルターになり太陽が大きく写りました。
こういう光景にあまり出会ったことがなかったので少し新鮮に感じます。
もちろん快晴の雪山というのは美しくて絵になりますが、こういう山ならではの気象条件もまた良いものです。





07時11分
昨日見上げた時に痛感していましたが、雪が融けてハイマツや岩が露出し始めています。こうなると植生を傷めないように注意して歩きたいものです。
幸いにして今回は夏道をベースにしてトレースが残っており、ハイマツの無惨な姿は無かったです。が、一部の登山道整備のために設置された丸太はアイゼンで削られ見るも哀れな姿になっていました。





07時39分
写真の左側は雪が融けて地面が出ています。その右側を見てみると雪面が光っていて氷状になっているのがわかります。これが2月末の写真であることが嘆かわしいです。





07時46分
場所によっては完全に雪が融けて地面が露出している場所もあります。
写真の部分はもともと雪が付きにくい場所ではあるのですが、この時期にこんな状態になっているのは驚きです。
これだけ雪が少ないと突然こんな場所が出てくることがあります。ここはまだ整備されている場所なので良いですが、独標付近にもなると雪のない岩の上を歩いていくことも珍しくありませんので雪が少ない場合は岩の上をアイゼンで歩ける技術を身につけてから登ることをお勧めします。





07時57分
独標手前の第12峰。ここは夏道でも冬道でもコルに向けて降りるとき、最後に緊張感のある岩場を下ります。今回はこの岩場が完全にアイスバーンになって凍結していました。
アイゼンというのは魔法の道具ではありません。バランスの取り方によっては岩や氷の上を滑ってしまいます。もちろんピッケルも刺さりませんので岩をホールドしながら慎重に下りていきます。





08時02分
独標に向けて登り返します。
最初に左にトラバースする部分は氷と雪が混在するような状況で危険な状態。雪と岩の混在する急斜面のトラバースに慣れていない方は動けなくなるレベルです。

その先は基本的には雪面は硬い。アイゼンも途中までしか入らず荷重のかけ方に気を使います。もちろんピッケルは全く刺さらず。
鎖から上の最後の斜面も同じ。昨日までに多くの登山者が行き来したため明瞭なステップが出来上がっており、足元は何とかなるがピッケルは全く機能しないので岩をホールドしながら登ることになります。ピッケルからアイスバイルに切り替えようかとも考えましたが何とかステップを利用してクリアしました。
おそらくステップがなければ撤退も検討するレベルです。





08時07分
西穂高岳独標登頂。
気がつけば周囲は完全に雲の中。独標より下は完全に視界がありません。
ただ、完全な曇り空というわけではなく、この西穂高岳の稜線に雲が流れており、そのほかの部分は快晴なのだというのがわかります。先ほども書きましたが麓視点で言えば今日は雲ひとつない快晴だが山の一部分だけ雲がかかっているといったところでしょうか。





独標から見上げる西穂高岳の稜線は平年の2月を知る者にとっては衝撃的な絵になっていました。
一番積雪量が多くなる時期、そして厳冬期特有の鉛色の空。そんなイメージでいたのですが、そういう固定概念は捨てた方が良いのかもしれませんね。だからこそ3月の安定した時期への期待が高まっていたというのもあるのですが。

さて、先ほどから風が強くなってきました。ここまでの登山道での雪面の状況や風などの要素、ここから見る頂上までの稜線の様子などを考えると、何だか今日はここから先に進もうという気持ちが失せてきました。
しばらく考えていましたが、風が徐々に強くなってきたことを理由に下山することにします。





今シーズンは「エルニーニョ」と呼ばれる地球規模の異常気象だと言われています。赤道付近で起きている異常な状態が日本付近に影響を及ぼしているわけです。穂高連邦からはるか南で起きている異常気象がここ(穂高)で目に見える形で現れているのでしょうか。
「エルニーニョ」「ラニーニャ」「ロスビー波」「ケルビン派」「PJパターン」など異常気象に関わりのある言葉を並べたところで何も心に響かないと言われても仕方ありませんが、いざ2月末にしては異常なほど雪が少ない稜線を目の当たりにすると世界的な異常気象について関心を持たざるを得ないのかもしれません。


2019年2月24日〜25日








登山記録トップへ
ブログトップへ

Copylight 2015-2016 Myclimbing Report All Right Reserved.