冬の西穂(2019年2月13日)




気象庁では12月〜2月を「冬」と定義しています。なので2月で冬は終わり。来月から「春」になります。
2月の中旬になり、すでに天気図では春に近づいている様子が現れていますが、ここ穂高の稜線はまだまだ冬真っ盛り厳冬期そのものです。
今回は2泊3日のゆったりプランで西穂高岳へチャレンジしてきました。
天候は良かったものの稜線を襲う暴風が自分の危険レベルを超えたため独標で引き返しました。独標自体も暴風で大変危険な状態でした。





11時04分
ロープウェイ終点到着。
今日は予報通り鉛色の雪空。登山口となるロープウェイ終点は観光地でもあるので今日も多くの観光客で賑わっています。
千石園地と呼ばれるロープウェイ終点の散策路はこの時期は通常だと人の背丈より高く雪が積もり雪の回廊のようになるのですが、今日の時点では完全にフラットな状態で今シーズンの雪の少なさを象徴しているかのようです。

さて、それでは今日も元気いっぱい山荘を目指して登っていくことにしましょう。





11時32分
雪質はとりわけ問題がありません。
少し前には雨が降ったようです。硬い雪面に柔らかい雪が乗っている形です。この連休中は多くの登山者が入山していたようです。なのでパウダーが乗っていてもしっかりと踏み固められた雪面がありますので多少パウダーで滑り気味でもしっかりアイゼンの刃を効かせれば比較的楽に登っていくことができます。

今日は大勢の登山者が下山していきます。途中で以前「やさしい山のお天気教室」でお世話になった山岳救助隊・山岳ガイドのM様とお会いすることができました。最初気づかなくてお声かけいただきようやく「ご無沙汰しています〜!!」とご挨拶できました。

この連休中、西穂山荘主催で冬山安全講習を開催しました。実際滑落したらどんな感じなのか、雪の中に埋もれるとどういう状態になるのか、雪洞って体験したことありますか? など机上も含めた本格的な講習を3日間の日程で行いました。そのため第一線で活躍する救助隊の方々が講師として入山されていたわけです。





12時10分
約1時間で山荘に到着しました。ちなみに雪だるまは倒壊の危険があるため残念ながら撤去されてしまいました。
連休中の冬山安全教室に参加した山仲間と雑談し、お互いの無事を願いながらバトンタッチします。
今日は連休最終日ということもあり次第に落ち着いた雰囲気になってきます。いつもの雪見酒を始めます。山仲間やその場にいる登山者と和気あいあいと飲むのも楽しです。が、時には厳冬期の吹雪を見ながらしみじみと飲むのも良いものです。





08時23分
翌朝です。
山荘から見上げる丘は昨日の降雪で美しい山肌になっていました。
トレースも診療所脇の直登を迂回する形で斜めに登っていく形になっていました。実はトレースなくラッセル状態だと丘の上にいくだけでも1時間近くかかってしまいます。なので今日は大変ありがたく迂回路を使わせていただきます。
例のごとくこの部分は焦らずゆっくりすぎるくらいのスピードで上がっていきます。





08時28分
トレースはありますが安定していないので少しでも踏み外すとバランスを崩してしまい転倒しそうになってしまいます。
いつもと同じ斜面を登っているのですが、コースが違うとまるで別の場所のように思えてしまいます。こうやって写真で見るとまた美しく見えるものですね。





08時35分
稜線に出てみると明らかに風が強いのがわかります。
下から上がってくる雲なのか強風で舞っている雪煙なのか区別がつかないくらいです。こういう時は風で飛ばされたパウダースノーが一面を覆うためトレースは瞬時に消え去ってしまいます。もちろん軽く乗っているだけなのでラッセルになるようなことはありませんが場所によってはキックステップのトラバースになる場合もあります。
今日は天気図通りの青空、そして今日も山荘泊なので時間の制約はほぼありません。今日は可能であれば頂上を狙っています。さてどうでしょうか?





08時41分
写真では伝わりませんが想像以上に風が強いです。
測定器を持っているわけではないので正確なものはわかりませんが経験値でいえばおそらく風速20m/sはあると思います。瞬間的には25m/s以上はあったかもしれません。
これくらいの風速にもなると通常の歩行では困難です。大の字に足を広げピッケルも支えに三脚のような体制でないと歩けません。飛騨側から継続的に吹いてくる風は予測がつくので耐えられますが、突然吹き付ける風がまるで蹴りあげられるかのように襲い掛かることがあり飛ばされないように耐風姿勢を取らなければなりません。一度だけ間に合わずに丸山付近で突風により2メートルくらい吹き飛ばされました。





08時48分
丸山登頂。
写真を撮るのが一苦労です。
この近辺は風の通り道なので今日みたいに風が強い時は停滞していられませんが、これから春先になって気候が安定してくると周囲の眺めを楽しむことができる絶景ポイントになります。
丸山まで登って撮影する方も結構います。





08時54分
さて丸山から先は変わらず延々と続く斜面になります。基本的には軽い雪は吹き飛ばされており足元は安定していますが、場所によっては吹きだまっているおり、パウダーで滑りそうになる部分もあります。
風も場所によって吹き方が違いますのでいつもより余計に神経を使いますし体力の消耗も激しいです。





09時01分
写真で見るとわかりにくいのですが、薄い氷で覆われている場所もあります。少し前の雨が原因かと思われます。
春のように一度融雪した雪面が凍ったものとは違いますので踏み込めば問題ないのですが、厳冬期にこのようなアイスバーンになっているのを見ると暖冬というのがなんとなく納得できるような気がします。





09時26分
少し高度が上がってきたので振り返ります。
いつもと変わらない光景ですが今日は雲が流れ込んでおりまた雰囲気が違っています。
よくよく考えると今シーズンは天候に恵まれることが多いです。昨年の夏や秋が天候に恵まれずキャンセルが続いたので、こうやって厳冬期に奇跡的に天候に恵まれるのを見ると「やっぱり自分は冬なんだな」なんて勝手に思ったりしています。





09時33分
この部分は通常(夏道)は左側をトラバースしていきますが、積雪があり慣れていると右手を登っていくこともあります。トラバース部分は結構足元が悪く斜面は谷底まで続いているので注意が必要です。また右に登っていく場合はかなりの角度の斜面で信州側の絶壁ギリギリを歩くことになりますので、何れにしてもこの部分は要注意です。
登る時は風が強くて危険なのであえて左手(飛騨側)をトラバースしていきます。





09時36分
風と格闘しながらの1時間でしたがようやく独標の姿が間近に見えてきました。
今回、独標の手前の第12峰を巻いていくか峰の上を越えていくか迷ったのですが、巻いていくコースを見ると雪が不安定に思えたので、慎重に峰の上を越えていくことにします。
短い距離ですが姿勢を低くしながら常に岩をホールドし足早に危険地帯を通過します。





09時42分
独標のコルは吹き溜まりになることがあり、その場合はキックステップでトラバースしなければなりません。今回は吹き溜まりは無くそのまま登ることができました。
この部分は雪のつき方でイメージが全く変わってしまうので、無雪期に来たことがあったとしても、まるで地形が変わったかのように思えてルートが分からなくなることがあります。
一度左に巻く部分を直登したり逆に右に行ってしまったりして、苦戦している方を時々見かけますので注意が必要ですね。





09時46分
最後は岩と雪のミックス地帯を登ります。
遠くから眺めていると簡単に登れそうな感じかしますが、いざ取り付くと想像以上の絶壁に足がすくんでしまいそうです。
とりわけ、鎖の設置してある岩を巻いた後から独標頂上までの最後の斜面はピッケルを使わないと登れない(降りれない)です。雪の状態などによっては夏道を使ってそのまま歩いて行けなくもないですが、これは地形を熟知していないと難しいので、基本は(あれば)ステップを利用し、ピッケルを使って直登するのが一般的です。





09時50分
独標登頂。
今日は周囲は雲で覆われており視界は限られています。
風が強く油断していると強風に煽られてしまいますので油断できません。ここから先はナイフリッジに近い稜線を越えていきますので体が持っていかれそうなほどの風が吹いている今日は危険であると判断し、今日はこれ以上先に進むのを辞めます。今でさえ危険な状態です。





独標から先、西穂高岳山頂までは見えますがそこから先は雲の中です。





反対側も雲がだいぶ上がってきています。





山頂まで行く予定を独標で切り上げてきたので今日は時間があります。本日は2泊目です。
まずは山荘までゆっくりおりていきます。風は多少弱くなったでしょうか。その代わり雲が上がってきてしまい視界がなくなります。

山荘の昼は日帰り登山者も含めて賑わっています。
本日の宿泊者は通常のこの時期に比べると多いような気がします。夕食の準備時間までレストハウスは賑わいを見せていました。

少し仮眠していたらその間に夕日が沈んでしまったようです。それでも沈んだ後のグラデーションはとても綺麗でした。





07時42分
最終日の朝です。
今日は天候としては昨日と変わりありませんので雪山の景色を楽しみながらゆっくりと下山することにします。
ロープウェイの始発便は山頂駅(新穂高口駅)で09時15分です。ですからこの時間に出発すれば余裕で到着できます。
樹林帯の中では風はほとんどありません。ロープウェイが動く前なので当然ながら誰にもすれ違うことなくトレースが消えかかった道を踏みしめながらおりていきます。
普段一泊でくる行程を2泊3日で計画しました。雪山の中で時間を過ごすというのはとても新鮮で楽しいです。

シーズンも終盤に近づいてきました。残された冬山登山を十分に楽しんでいきたいと思います。




2019年2月11日〜13日



今回は毎年恒例になった自分のイベントである「バースデー登山」でした。誕生日の朝を穂高の雪山で迎えるという最高のお祝いです。
詳細は書きませんが皆様よりたくさんの御心遣いを頂きました。この場にてお礼申し上げます。











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