冬の西穂(2019年1月30日)



2019年の登り始め。
今年の1月は諸用があり、あえて登山の予定を入れていませんでした。なので登り始めはこの時期に。

事前に天気図をチェックしていましたがアタックとなる2日目は高気圧が穂高の上にドーンときていて期待できるのではないかと予想していました。そしてその予想をはるかに上回る素晴らしい天候に恵まれ充実した登山となりました。

まさかここまでコンディションが良いとは思っていなかったので出発時間を遅くしてしまい、結果として頂上手前でタイムオーバーになりましたが、それはそれで良いと思っています。





12時44分
前回(12月末)に来た時と比べると明らかに積雪量が増えています。やっと「普通」になったという感じかします。
数日前にかなりの降雪があったようで、ロープウェイ外の千石園地も除雪のため立ち入り禁止になっていました。登山装備をしているので「出ますか?」と聞かれます。準備があるので終わったらスタッフに声かけすることにしましたが準備しているうちに除雪が終わりそのまま外へ出れるようになっていました。

定点で撮っている登山センターはだいぶ雪の中に埋もれてきたイメージがあります。通常でしたらまだまだ積雪量が増え、最終的には屋根と地面がくっついてしまいます。





14時04分
今日は多少雲がかかっていますが登っているうちに雲が抜けてきて青空が見えてきました。
途中まではワカンを履いていたのですが、登山口近くですれ違った方から「ワカンはいらないよ」という情報をもらったこともあり撤収しました。当初心配していた怒涛のラッセルはなく、多少緩めの雪面を登っていきます。流石に降雪後そんなに時間が経っていないので頂上直下の急登部分は気をぬくとすぐに雪が崩れてしまうので、ちょっとだけ苦労します。





14時24分
西穂山荘到着。
いや〜、この積雪量にびっくり。いや、これが例年並みですから、「この積雪の増加にびっくり」という方が正確ですね。今までは雪がある時期にしか来ていなかったのであまり感じなかったのですが、昨年は秋以降の雪がない時も来ているのでその違いに圧倒されてしまいます。





14時26分
地形的には山荘前とテント場はかなりの高低差があるのですが、ついにその差がなくなりフラットになってしまいました。
ちなみに地図を見れば一目瞭然ですが、山荘は岐阜県、テント場は長野県です。

さて、諸事情により到着が遅れたので今回は西穂ラーメンはお預け。なのでいつも通り雪見酒を始めます。いや〜、なんていうかお酒がいつもの倍以上おいしく感じられますね。
週の半ばですが翌日が好天と分かっているからなのか今シーズンでは一番宿泊が多いような気がします。





06時46分
翌朝は予報通り素晴らしいご来光になりました。
食後しばらくのんびりし時間を見計らって外に出てみると、今まさに日が昇ろうとしている瞬間ですかさずカメラを構えます。
この時期は山荘前からご来光を見ることができます。日の出は徐々に左側になっていき、3月にもなると明神岳の向こう側になってしまうのでご来光はこの時期がチャンスですね。





07時28分
出発です。
どのみち独標かピラミッドピークと思っていたので少し出発時間を遅らせました。が、これが後々後悔することに・・・

とはいえこの時は急いでも体力を消耗するだけなのでゆっくり登っていくことにしました。例のごとく山荘裏手の急登は、ついつい最初の部分なので急いで登りがちですが、朝一番ということもありゆっくり登っていくのがお勧めです。





07時35分
稜線上に出ると目に飛び込んでくるのがこの光景。ここから見えるのはピラミッドピーク(第8峰)から独標(第11峰)と西穂高岳山頂です。
山頂は一番左側の部分です。中央付近にある目立った峰がピラミッドピーク、右にある黒っぽい台形の峰が独標です。

雪の量は樹林帯と比べるとそんなに増加したようには感じられません。増えているのは確実ですが風で飛ばされてるのでその増加量は少ないのかもしれませんね。風速は測定器を持っていないので正確なものはわかりませんがおそらく10m/s程度でしょうか。この時期にしては弱いくらいです。ただ身を切るような冷たさはないのでまるで春のような陽気です。





07時47分
丸山登頂。
本日の丸山はこの時期にしては風は穏やかでした。
後ろにそびえる笠ヶ岳の稜線は雪が多くなりとても見ごたえがあります。同時にとても雪崩が起きそうな状態になっているとも言えるでしょう。

数名の方がいましたが、皆丸山で引き返していったようです。この後しばらく登ってから振り返ると小屋へ戻っていく姿が見えました。





07時58分
丸山から上部の延々と続く斜面は、よく見ると何となく夏道がナゾれるかなという程度。積雪量が増してほぼフラットになっています。風で大方の新雪は飛んで行ったと思われますが、それでも雪面はまだ安定していない箇所も多く気をつけないとアイゼンを履いていてもズルッと滑ってしまいます。
それでも中途半端な積雪時よりは比べ物にならないくらい歩きやすいです。





07時58分
風で雪煙が舞っています。
もちろん風が強いということは登山者にとってはあまりメリットのないことですが、この風が雪面を削り作り出した美しい芸術を見ていると「悪くもないかな」なんて思えてきます。
風紋と呼ばれる風の芸術が雪面のあちらこちらにできています。





08時09分
ひっそりと静まり返った上高地が見えています。
最近では上高地でスノーハイクをするツアーもあるようで人が全く立ち入らないというわけではありませんが、シーズン中に比べると落ち着いるように感じます。
上高地に一般的に入れるようになるのは連休前の開山式後です。今年の春の穂高はどうでしょうか。





08時32分
今日は天候が良いため遠くの白山が綺麗に見えています。
白山の麓付近まで見えるのは珍しいです。とりわけ1月末の厳冬期にこの写真が撮れるというのは運が良いです。






08時22分
一通り斜面を登り終えると独標から先の稜線が目の前にそびえてきます。
あまりに絶壁なため着雪せず黒々とした岩が見えており典型的な厳冬期の姿になっています。
さて、独標直下にいくにはもう少し登っていかなければなりません。ここから先は雪庇が張り出している部分もあり、とりわけ視界が悪い時などは注意する必要があります。





08時44分
左手に大きくそびえる独標の手前に第12峰という小さな峰があります。
第12峰を巻いていくか超えていくかはその時のコンディション次第ですが、最近は巻いていく人が多いように感じます。
今回はだいぶ雪が着いてきているので第12峰を超えていくことにします。
巻いていく場合は岩の上に雪が被さっているだけの時がありますので、知らずにアイゼンを踏み込んで滑らないように注意した方が良いと思います。





08時57分
独標登頂。
独標直下の最後の斜面の雪があまり締まっておらず意外にも難易度は高めだったかもしれません。
普通にガムシャラに登れば何て事ないのかもしれませんが、確実に足場を確保しながら登っていくというのが基本だと思っています。斜面の一部は軽くラッセルになる部分がありましたが、落ち着いて周囲を見ると崩れていく雪のそばにアイゼンの爪を引っ掛けられる岩がありますので、これらを利用し確実に足場を確保しながら登っていきました。





08時57分
独標から山頂方面を見上げます。
風上側と風下側の雪の着き方がまるで違います。こうやってみていると何だか見えないはずの風の流れが見えてくるような気がします。

さあ、コンディションは上々。足早に独標を出発して先に進みます。
独標の山頂側斜面は整備されていることもあり山荘側斜面を比べると楽に上り下りできます。





09時11分
第10峰に登り返し独標側を振り返ります。
ここは降雪直後でアイゼンの効きが悪い時や逆に春で凍結している時は一気に難所になります。
今日はアイゼンもしっかり効き安定して超えていくことができました。独標〜ピラミッドピーク間は山荘から西穂高岳の稜線の中でも難易度が高く雪のコンディションによっては命がけになる場合もありますから無理と思ったら引返すことが重要ですね。

第10峰から山頂側へ降りる部分は短いですがほぼ垂直な岩場をおります。落ち着いて周囲を見渡せばホールディングできる岩やアイゼンを置くことができる隙間がありますが、垂直の岩場の上り下りに慣れていない場合は恐怖感を感じるかもしれません。





09時15分
お次は第9峰への登り返しです。
第10峰と第9峰のコルの部分は雪庇が張り出していますから飛騨側を歩くようにしなければなりません。その後の岩を飛騨側に巻いていく部分では足元が悪く、ホールディングできる岩も限られているのでかなり緊張する部分です。
鎖を使って急斜面をクリアすれば、この部分の危険地帯は終わりですが、高難度の岩稜帯ですから気を抜くことはできません。一歩間違えれば即滑落になる場所はこの後もたくさんあります。





09時21分
第9峰を超えてピラミッドピーク側に降りていく途中にあるこの岩場は、もっと雪が多いと信州側を巻いていけるのですが、今日の時点では危険と判断。おそらく雪崩れて谷底へ行ってしまうので、飛騨側を超えていきます。
飛騨側はホールドできる場所や足を置く場所も限られており、絶壁なためアイゼンやピッケルなど冬山装備をしている状況では、ほんの数メートルですが緊張感があります。





09時25分
ピラミッドピークに向けて斜面をトラバースしていきます。 第2峰のトラバースに比べればまだ斜面が寝ているので歩きやすいですが、斜面は谷底まで続いていますから一歩一歩を慎重に歩いていきます。
多くの登山者を悩ませるトラバースの最後にある雪壁ですが、今日は思いの外雪が締まっていて、崩れる部分はあったものの概ね順調に登ることができました。





09時40分
ピラミッドピーク登頂。
いつもながらの絶景です。ここまで来て初めて稜線の終盤が見えてきます。
さて、天候は申し分ない状態、そして雪質も概ね上々。当初の予定は独標かピラミッドピークにしていたのですが、気がついたらピラミッドピークから先に進んでいる自分がいました。





09時47分
第7峰です。
積雪期は峰の上を超えていきます。積雪によって通れなくなるルート、逆に通れるようになるルートなどよくわきまえておく必要があります。特に第7峰は積雪した状態で鎖のある夏ルートにいくとかなり困難を覚えます。
また、第7峰自体はピラミッドピークを縦に半分に切ったような形になっており、滑落死亡事故も起きている難所です。





09時54分
第6峰まで来ないと見られない「たぬき岩」
今日も元気にしっかりと立っている姿に励まされます。
第5峰から続く尾根の先にあるので暴風雪など常に厳しい環境に晒されてきたのでしょうが、それを耐え抜いてしっかり立っているその姿は「何があっても挫けてはいけないよ!」と言われているようで、第6峰の頂上でしばらく考え事をしてしまいました。





10時13分
第5峰です。
基本的には飛騨側を巻いて登ります。時々峰本体を登る人がおり、知らない後続者が同じルートを必死に取り付いている場面に出くわすことがありますが、撮影などの特殊な場合を除き通常第5峰は積雪期であっても巻いていきます。
さすがにここまでくると「高度」というのを肌で感じるようになります。それは単にGPSの数字上の高度ではなく、すでに3000mに近くなっている天空の領域に踏み入れているんだというのが、何というか直感で伝わってくるんですね。





10時13分
次なる大ピークとなるチャンピオンピーク(第4峰)に向けて急な斜面を登っていきます。
斜度でいえばこれまで登ってきた斜面とあまり変わらないですが、周囲が切り立っており谷底まで滑落する可能性もあること、高度が3000m近くになっていること、ここまで登ってくるのに体力を消耗していることなどがあり、今まで以上に集中力が求められます。
最後は直登していくか、右に迂回していくか、その時の状況で判断します。





10時21分
チャンピオンピークの一番高いところに立ち、頂上を見上げます。
残すは第3峰、2峰、そして主峰。

時間を再計算します。
山頂から西穂山荘に戻るのに今までの経験から約3時間、山荘からロープウェイまで約1時間。ここから山頂までは恐らく30〜40分くらい。山荘で30分休憩したとすると、ロープウェイ乗り場の到着は15時30分ごろになる見込み。ロープウェイ最終便は16時15分。
時間がタイトです。一番やってはいけないのが時間がなくて焦ること。焦りは事故に直結すると考えています。冷静に時間計算した結果、今回はここで引返すことにしました。コンディション的には頂上まで問題なくいけるのですが、出発時間の設定ミスがここにきて響いてしまいました。





下山する前に今まで登ってきた稜線を見下ろします。
さすが名だたる名峰です。その稜線も極めて困難な道のりです。いざ取り付くとそんなに感じないのですが、改めてこうやって眺めるとすごい場所なんだと思います。

時間重視で引き返したので、ゆっくり慎重に降りることができ、チャンピオンピークから西穂山荘まで2時間弱で下山しました。山荘で少しゆっくり休憩しロープウェイには14時前に到着できました。

「山は生きている」よくいう言葉ですが、今日も姿こそは見せませんが小動物の足跡などを見ていると、そこでの生命の営みを実感しますし、雪の割れ目からかすかに見える春を待っているハイマツを見ると、その通りだなと思います。



2019年1月29日〜30日










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