冬の西穂2018年3月10日



久々のピーカンとなった今回の冬の西穂。
今シーズンは天候に恵まれないことが多く、登山口にすらたどり着けなかった事も2回ほど。それでもシーズン終盤は恵まれた天候の下、西穂へのアタックをすることができました。
降雨およびその後の気温低下で朝一番は第4峰を降りて3峰にトラバースする辺りで雪の下層がアイスバーンとなっており、アイゼンやピッケルでは対応が難しく極めてリスクが高い状態であることから、この時点で引き返して来ました。主峰登頂ならずでしたが美しい稜線の姿を見ることができ大変満足な山行となりました。





11時31分
雨が降り気温が高かった影響で小屋周辺の積雪は2ヶ月ぐらい前にタイムスリップしたような状態になっていました。
通常だとこの時期は小屋自体が雪に埋れてしまっているのですが恐らく融雪してしまったのでしょう。





11時53分
これも気温のせいでしょうか。歩いていると突然スボッと穴が空いて落ち込んでしまいます。いつ穴が開くか分からないので、かなりストレスに感じました。
こういうのを見ると穂高も春に近づいているのだということが実感できます。





12時40分
西穂山荘到着。
雪だるまは営業終了してただの雪の塊になっていました。

さて、明日は天候が回復することがわかっているので今日は稜線には出ずに山荘でゆっくりすることにします。
山荘の常務を始め多くの方々と楽しく交流ができました。山が好きな人との会話は尽きないです。また機会があれば是非席を設けたいなと思いました。





06時13分
翌朝は快晴でした。
朝食でレストハウスに降りていき外を見た途端「これはいける!」とテンションが上がりました。
天気が安定して快晴になった時の明け方というのは独特の静けさというか言い表しようのない雰囲気があります。今日はまさしく「晴れるぞ」オーラが出ています。
ご来光はすでに左側(明神側)に寄っているので木の陰になり、山荘前からは完全な姿は見れませんがご来光ツアーではないので、今日が快晴であるということで十分です。





日の出直後の雲海です。ここまでの雲海はあまり記憶にありません。
おそらく夕日はこの写真の位置に沈んで行くはずです。今日は綺麗な夕日が見られそうですね。その頃には自分はすでに下山していますが・・・





06時48分
さあ! 出発です。
快晴、無風、気温微暖。言うことなし。これ以上何を求めるのですか状態。心配していた雪質もここでは問題なし。
出発直後はまだ体が順応していないので、山荘裏手の丘はゆっくり登って行き少しずつ慣らしていきます。ここを急いでしまうと息が上がってしまい辛くなってしまいます。





06時57分
稜線の雪は昨日の樹林帯の雪とは変わって固まっています。昨晩から冷えたからと思われますが、アイゼンを履いているのでかえって歩きやすいです。
雪が融けた・固まったという話が出始めると穂高も春に近づいていることを実感します。とりわけ下山時お花畑はすでに雪が腐っていて、シーズンの終盤になっているのだということを雪で感じるようになりました。





06時58分
振り返ると焼岳と乗鞍岳が綺麗にそびえています。
全方位に雲海が出ていて限られたものだけが雲海より上の存在を許されています。





エビの尻尾が張り出しています。
昨日は想像以上に雪が降ったのかもしれません。これはピラミッドピークを過ぎた辺りから身をもって実感することになるのですがこの時点では全く予想もしていませんでした。
エビの尻尾も下りてくる頃には姿を消しているかもしれませんね。





霞沢岳周辺も雲海に覆われています。
この方面の雲海は珍しいです。





安曇野方面も一面の雲海。
写真ではあまり伝わりませんが遠くの山が比較的近くに見えています。湿度がある時には目の錯覚で近くにあるように見えるようですが、今日は空気が多少湿っているようです。





07時13分
丸山到着。
今日は笠ヶ岳が綺麗に見えています。丸山で無風というのが信じられないです。
もう3月なんですね。ついこの前までシーズンが始まった! なんて喜んでいたのですが、気がつけばシーズン終盤になっています。早いものですね。





そして本日の西穂高岳稜線です。
雨が降った直後は黒々とした岩が目立ち残念に思っていたのですが、ここから見上げる限りは白さを取り戻しているようです(洗濯の宣伝のような言い方ですが・・・)
ただ、特にお花畑周辺などは依然として雪の少なさが目立っています。しばらく好天が続く予報ですから、もしかしたら融雪が進むかもしせませんね。





07時59分
独標が目前に迫ってきました。
さすがは独標だけあって前日までのトレースがきちんと残っています。ただ、初見で直感したのは雪が少なく岩の露出が多いという事です。
実際に登ってみると、例えば鎖の部分は通常冬季であれば鎖を利用するのが一番安全ですが、今回は鎖の周辺の雪がなく岩がむき出しになっているので、少し横の雪がある部分にそれて他の箇所と同様ピッケルを使って登ったほうが楽でした。
鎖から上部も岩の露出が目立っていてこのまま融雪が進むと雪が少な過ぎて逆に手応えを感じる状況になってしまうのではないかと思いました。





08時13分
独標登頂。
雲海による絶景は変わらず。果てし無く続く雲海に息を飲んでしまいます。
この時点で本日の先頭になっていました。
狙っているのは頂上ですので、息が落ち着いたらすぐに出発することにします。





ここ(独標)から始まる岩峰帯を見上げます。
こちらは想像以上に着雪があり安心します。
ルートを見ると第10峰にトレースが認められますが少なくとも今朝付けられたトレースではないようですので(第9峰から先はトレースなく、今日は誰ともすれ違っていないので)ここから先は慎重に行動しなければならないということを肝に命じます。





08時22分
第10峰への登り返し部分です。
しっかりしたトレースが残っていたので利用させていただきました。この部分は飛騨側斜面で凍結も心配していたのですが問題なくクリアできました。





08時25分
第10峰から独標側を撮ります。
やはり風下側の着雪が顕著です。
こうやって改めて見てみるとなかなか絵になる一枚になりました。





08時35分
ピラミッドピーク(第8峰)に向けてのトラバースと上りになります。
ここから先はトレースはおろか積雪量が想定よりもあり、場所によっては登山靴が見えなくなるくらい潜り込むような部分もありました。
ピラミッドピーク手前の雪壁は以前に付けられたステップが下層に残っていて、蹴り込めば崩れることなく登っていけます。そして雪壁を超えた後は高度感のある最後の直下を新雪フミフミしながら詰めていきます。





08時53分
ピラミッドピーク登頂。
気象条件は全く問題ありませんがトレースがなく新雪の状態です。しばらく考えますが、ここまで歩いて来た状況を考え雪の状態が一変しない限りは頂上まで登ることにします。

ピラミッドピークから頂上側へ降りる部分は完全に吹き溜まりになっていて、足を取られて横に雪崩れていかないように慎重に下りていきます。距離は短いしラッセルなんていう程のものでもないので問題なくクリアできます。

独標から先の岩峰帯で注意しなければいけないことの一つが雪庇です。雪庇ができるメカニズムを思い出ししつつ、この雪と稜線の形だとどの部分が実際の稜線で、どの部分が雪庇なのかをよく考え、慎重に足をおいて行きます。恐らく今日以降多くの登山者がトレースをなぞることと思いますので、きわどい場所にトレースをつけることだけは避けなければなりません。自分さえ登れれば良いというのはあまり好きではありません。





09時07分
第7峰は雪が少なく、夏ルートの鎖が現れていました。
それでも峰の上を超えて行く冬ルートが有効でしたので冬ルートを選択します。

この見極めが大事ですね。冬だから冬ルートと固執するのではなく、「今はどちらのルートが最善なのか」を判断する能力や経験が必要です。実は登るときに第12峰でルート選択を誤ってしまいました。なんの違和感もなく12峰の冬ルートを歩いたのですが、雪が少な過ぎて逆に危険な状態でした。夏ルートに大多数のトレースがあったので後続も夏ルートを辿ってくれると思います。





09時22分
たぬき岩を左手に眺めつつ第5峰を巻きました。
振り返って撮影していますので、写真右手が飛騨側になります。
第5峰を巻く際、一部段差がある岩を乗り越えなければならず高度感も相まって通過に苦労しますので注意する必要があるでしょう。今回はパウダーも乗っていて足元が不安定でしたので緊張感が走りました。





09時23分
チャンピオンピーク(第4峰)に向けての急登が始まります。
技術的な難所ではありませんが、斜度がキツいのと高度感があるのと標高が高くなっていることなどがあり手応えを感じます。
加えて今回はパウダーが乗っていて、踏み込んだ途端に軽く表層が崩れるような状態になる部分があり一層困難を感じます。
ここまで来れば頂上までは後少しです。時間経過も予定通りで全く問題ありません。

が・・・





09時32分
チャンピオンピーク(第4峰)から第3峰に降りて行く部分です。
すでにこの時点でピッケルの入りが悪いなという感覚があったのですが、第3峰に向けてトラバースする時点で表層は准パウダー、下層はアイスバーンになってしまいました。もちろんトレースはありません。最初はピッケルが岩を直撃しているのかと思いましたが、どこを叩いでも同じような反応ですのでアイスバーンであることがわかりました。

准パウダーと書きましたが表層はそれなりにしっかりしていましたし、アイスバイルを持っているので、安全なところまで戻ってバイルのダブルアックスに切り替えて強引に突破できなくもありません。アイスバーンになっているのはほんの一部分だけかもしれません。

でも、この時は別のことを考えていました。

昨晩、皆で呑んで楽しい時間を過ごせたこと、山荘の常務と気象の話などたくさんさせていただいたこと、そしてここに来るまで完璧な青空と白く美しい峰々を目に焼き付けて来たことなどなど・・・

「常に100%であれ」

せっかくの良い思い出を作れたのに、ここで遭難してしまったら全てが台無しになってしまいます。
「行けけるかもしれない」は同時に「死ぬかもしれない」でもあります。もしかしたらトラバース中に表層雪崩が発生するかもしれません。そうなった場合に対応できる装備や技術は、今自分にはありません。目の前の条件でここから先に確実に(100%)進めて確実に(100%)戻れる技術と経験は今の自分にはありません。

09時40分。凍結によるハイリスクのため中止。






09時48分
チャンピオンピーク(第4峰)まで戻りました。
ここはゆっくり休める場所はないのですが、それでも比較的安全な場所に腰を下ろしこの素晴らしい景色にしばらくの間見惚れます。

下山して行きます。

独標のコル(独標をおりた安全地帯)まできたところで始めて一息つきます。

山荘に向けてさらに下山していると、始発のロープウェイで登ってきた登山者と早くもすれ違います。今日は最高の天気です。すれ違う方皆が嬉しそうな表情をしていました。

山荘で休憩・食事のひと時を過ごし下山して行きます。

二日間の素晴らしい思い出と共に。




2018年3月9日〜10日








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