冬の西穂(2017年12月30日)

2017年の登り納めとなる今回の西穂。
アタック日となる12月30日は見事な青空。雪質も最高だったのですが、風が非常に強く風速でいうならば20m、瞬間的には25mはあろうかという状態。ピラミッドピーク頂上では普通に立っていると倒されるので、大股で低姿勢になってやっとの思いで写真撮影をしました。
強烈な風に危険を感じピラミッドピークで引き返してきました。





11時42分
初日は朝早い時間は天候が良かったようですが、この時間はすでに雲の中。厳冬期特有の鉛色の空になっていました。
新穂高ロープウェイの終点となる新穂高口は通常だと4階から外に出れるのですが、今日みたいな天候が悪い日は入口は封鎖されています。なので2階から外へ出ます。ちょうど山荘スタッフの皆様が出発準備をしていて、今晩お世話になりますと挨拶します。
写真の場所は積雪量がわかるように定点で撮影しているポイントですが、前回と比べると正直なところあまり積雪量としては変わっていない印象を受けました。雪は想像以上に締まっていて歩きやすかったです。






12時10分
今週はずっと吹雪だったと聞いていましたので樹林帯の様子が心配でした。最悪ワカンの出番かと覚悟していたのですが、さすが年末ですね、明瞭なトレースが付いていて問題ありませんでした。どちらかというと3月頃の雪の感覚のように思えました。





12時37分
山荘直下の最後の急登部分ですが、今回は完全に冬用の直登ルートに変わっていました。
直登は大変ですが、それだけ効率よく高度を稼ぐことができるので私は結構好きだったりします。
なお、樹林帯では雪崩などの危険があるため、指定されたルートを外れるのは厳禁であることはいうまでもありません。これから3月下旬まで雪のつき方によって山荘スタッフの方がルート設定してくれるので、登山者のマナーとして正しいルートを歩きたいものです。





12時46分
西穂山荘到着。
そして目に飛び込んできたのは巨大雪だるま。しかも今シーズンのは格別にデカイ!
遠くから見てもその存在感は圧倒されるものがあります。

さて、今日は年末だけあって宿泊者は多く本館が解放されています。
年末と3月の安定期で好天が続くときなどは、入山者が多いため本館が解放されることが多いようです。
別館レストハウスも普段とはまるで違って賑わっています。で、いつものように日本酒をちびちびやりながら過ごします。





06時53分
翌朝は快晴。見事なご来光です。
日の出の少し前まではちょうど太陽が昇る部分に雲がかかっていて諦めかけていたのですが、ご来光の直前に奇跡的に雲が抜け、素晴らしい写真を収めることができました。
今日の午前中は晴天が期待できるということと、風が強いので注意するよう予報されています。風の強さがどの程度なのか、実際に稜線に出てから判断することにします。





07時25分
特大雪だるまが存在感を出している中、登山者が続々と稜線に向けて登って行きます。
今日は晴天ですが風が強いことを考慮して防寒対策をします。小屋の温度計は氷点下10度でした。風速は1mで体感温度1度下がるわけですがら、本日は風速20mと予報されており、その場合は体感温度では氷点下30度に達することになります。
さて、色々と準備が完了しましたので、いざ稜線に向けて登って行くことにします。





07時34分
小屋の裏手の丘を登ってしばらくして振り返ると今日は雲と山頂が絶妙にマッチングしていて神秘的な絵になっていました。
ですが、予報通り風が強烈で普通に立っていると風で倒されてしまいます。強風の場合は普通に登って行くだけでも余計に体力を使うので覚悟をします。





07時44分
丸山登頂
やっぱり風が半端なく強烈です。写真で見る限りはそんなに風が強いようには見えないのですが、写真を撮るのが精一杯なほどでした。
ここに来るまでも風との格闘でしたが、おそらくここから先の稜線も一層風が強くなるものと思われるので、とにかく体力を温存しながらゆっくりと登って行くことにします。






丸山から稜線を見上げます。昨日雪が降ったようですが、風で飛ばされて着雪しなかったと思われます。こうやって見るとまだまだ夏の登山道の名残があり、これからが本格的なシーズンなんだなと実感させられます。
早い人はすでに独標をすぎてピラミッドピークへ向かっているのが目視できます。さあ、頑張って登ることにしましょう。





08時31分
独標が目前に迫ってきました。
今日は強風のためと思われますが、手前の第12峰は夏道にトレースがつけられていました。私はいつも通り第12峰を上から越えて行きます。独標から先へ行く場合は第12峰のような場所がたくさんありますから、ここで怖くて夏道を巻いて行くようでは独標から先は難しいです。
3月の安定期ほどではありませんが、登山者が一時的に集中したため独標直下で少々順番待ちをします。





08時44分
独標登頂。
今日は完璧な青空に恵まれました。後ろに見える笠ヶ岳も美しく冠雪しています。年末年始は全般的に天候が悪く、今日だけが恵まれた気象条件だとのことでした。それにしてもこの天候は恵まれすぎですね。まあ、今年は春・夏・秋と悪天候に悩まされ続けてきたので年の最後に好天で精算という感じでしょうか。

さて、この先の稜線を見上げます。ここからでは数名の登山者が先行しているのが目視できます。天候や雪のコンディションからすると本日は西穂高岳山頂まで行けるコンディションですが、想像以上に強烈な風のため、ピラミッドピークを一つの目安にすることにします。





出発前に独標から絶景を眺めておきます。
一番左が西穂高岳山頂、右に行って中央あたりにジャンダルムが見えています。そこから長い尾根(吊尾根)をへて一番右に前穂高岳が見えます。
峰の上に雲のような白いモヤがかかっていますが、これは雲でなく強風で雪煙が舞い上がっているんです。それほど風が強いということです。





08時53分
独標隣の第10峰に登りました。
第10峰から山頂側に降りるとき、よく飛騨側の×印が付けられている所から降りようとする人を見かけます。第10峰から降りる部分は落差は少ないですが垂直に近い岩場を降りることになります。なので×印の方から降りた方が簡単に思えてしまいます。
ところが第9峰側から見るとわかるのですが、×印の方が絶壁をトラバースするような形になり、ましてやアイゼンやピッケルを装備している状態では危険極まりないルートとなります。だからこそ×印がつけられているわけです。
ここはピッケルをフル活用して慎重に垂直の岩場を降りて行くべきです。





08時54分
独標側を振り返ります。
独標の山頂側は山荘スタッフにより整備されて以来、上り下りが楽になりました。今となっては独標はこちら側(山頂側)の方が楽に通過できます。
遠方の山々もよく見えていて空気が澄んでいるのがわかります。独標を見ると飛騨側の風上と信州側の風下ではまるで雪の付き方が違うのがよくわかりますね。





08時58分
第10峰と第9峰のコルの部分になるナイフリッジです。
ここが冬季特有の危険な場所であるのは、雪庇が張り出すからです。写真で見ると比較的道幅があるように見えますが、実際は痩せ尾根です。つまりほとんどが雪庇の上(つまり下には何もない)だということです。
こうやって見るとゾッとする場所に足跡が残っています。まさかここですれ違いでもしたのでしょうか。ここはどちら側に滑落しても数百メートルは落ちて行く場所です。間違ってもこの部分ですれ違いなどしてはいけませんね。
今日は風も強いので突風に煽られることがないように足早に越えて行きます。






ナイフリッジを越えた後も岩と雪のミックス帯を乗り越えて行く難所が続きます。ここも滑落したら谷底まで行ってしまいますので緊張が走ります。とりわけ下山時は恐怖感からなかなか降りられないで苦労している方を見かけることが多いです。






09時02分
第9峰登頂。
ここから、次のピラミッドピーク(第8峰)に向かって降りて行く途中で、一部難所があります。岩を飛騨側から巻いて行くか信州側から巻いて行くかによって求められる技術がまるで異なります。信州側から進めらば楽なのですが、信州側から進めるのは雪が十分に付いている時だけです。雪の量が不十分だとそのまま雪崩になって滑落します。飛騨側から進む場合は絶壁をアイゼンの前刃を活用して乗り越えていかなければならずかなりの難所になります。
今回は十分な着雪があり、トレースも付いていたので信州側を通りました。





09時08分
そしてピラミッドピークへ向けての登り返しの始まりです。
まずは斜面のトラバースを経て雪壁に向かいます。今日の雪壁は雪がしまっているおかげでラッセルにはならず楽に上がることができました。
雪壁の後は最後の直登ですが、風が非常に強く露出間のあるピラミッドピーク直下はかなり恐怖感があります。時折突風が吹き付け、倒されそうになります。腰を落としてゆっくり進み万が一の時はすぐにピッケルで静止できるよう常に頭の中でイメージしながら登って行きます。





09時18分
ピラミッドピーク登頂。
強風のため今日はここで引き返すことにします。この天候や雪質で引き返すのは大変口惜しいですが、そこは自分の経験値の限界であり、また単独行でもあり、限界を越えた無理な登山は遭難の原因になりますのでここで中止です。
実際に頂上に立っている方がここから目視できます。やはり経験や技術が物を言うわけですね。強風に対する訓練というのはあまりしてこなかったので、今回は天候以上に収穫のある登山になりましたし、まだまだ自分の至らなさを痛感しました。






風が強くて危険なのであまり写真は取れませんでしたが、ピラミッドピークの標高から見た乗鞍岳方面です。先ほどの写真とはまた違った視点で見ることができますね。





残念賞ということで主峰までの稜線のアップをカメラに納めます。
第6峰だけは隠れて見えませんが第7峰から主峰までが見えています。


さて、相変わらず吹き付けている強風と格闘しながら西穂山荘まで下りていきます。山荘でカレーとコーヒーで一休みしてロープウェイまで下りて行きます。ロープウェイの高度では稜線ほど風は強くなく通常運転していて安心します。下山の際は予想通り多くの登山者とすれ違います。最後の登り返しの部分で正月用の物資を歩荷しているスタッフの皆様と会いましたので年末の挨拶や、稜線の状況などの話をします。

これまでの冬の西穂登山でも厳冬期の強風というのは経験してきたつもりですが、風速20m前後での独標から先の稜線というのは考えてみればほとんど経験がなかったように思えます。先ほども書きましたが、好天に恵まれ楽しい登山ができたと同時に思いがけない訓練登山にもなり、想像以上に充実した今年の登り納めとなりました。
それでも冬山シーズンはまだまだ始まったばかりです。来年もたくさん冬山に登って経験を増やして行きたいです。

お読みいただきありがとうございました。



2017年12月29〜30日




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