穂高に魅せられてー「秋」編


「夏」編より続く

Q
次に穂高の秋についてです。やっぱり秋というと紅葉といったイメージがあるのですが、穂高でも紅葉は綺麗なのでしょうね。
A
涸沢から眺める紅葉は有名ですね。


2017年9月29日 涸沢の紅葉

涸沢は標高が約2300mですが、日を追うごとに紅葉は変化して行くので紅葉のピークはピンポイントで変わります。その年によってピークは異なりますから事前に情報を収集しておかないと早すぎて色がついていなかったり、すでに落葉していたりベストな状況を見落とす可能性が十分にあります。

Q
これは綺麗ですね。そういえば涸沢のテントが1000張以上になったと言ったニュースも聞いたことがありますが、それだけ人気のスポットなのですね。
A
そうです。特に2017年は紅葉のピーク・週末・天候が全て重なり大変な状況だったと聞いています。自分も木〜土だったのですが最終日に下山する際は登山道がパニックになっていました。

Q
登山者も紅葉が綺麗な時に登りたいですからね。
A
登山者というよりも紅葉ツアーの人たちが大勢訪れます。涸沢に二つある山小屋はいずれも布団1枚に3名といった混雑ぶりです。なのでこの時期の涸沢は週末を避けてテントで対応するのが一番だと思います。逆に稜線の山小屋はそこまで混雑はしておらず毎年ゆっくりと宿泊しています。

Q
テントも荷物が重くなって大変そうですね。
A
これは人それぞれですね。小屋でぎゅうぎゅう詰めになって寝るのか、テントで思い切り足伸ばして寝るのか。ちなみに、涸沢の二つの山小屋ではテントの人でも食事だけ食べに来ることができます。私もそうしています。こうすれば荷物は大幅に減って楽になりますよ。

Q
テントも最近のものは設営も楽で軽量化されているようですね。
A
そうですね、昔のテントというのは分からないのですが(笑)、ただ最初に登山ショップに行って畳んだ状態で売られているテントを見た時、びっくりしました。「こんなに小さくなってしまうのか」って。


2017年9月29日 涸沢に設営したテント

でも、組み立てると立派な テントになって「すごいな」って思いましたね。

Q
テントは自然を感じることができていい、という方が多いです。やはりテント泊と小屋泊では違いますか?
A
全く違いますね。部屋の中で目覚めるのと、テントとはいえ外で朝を迎えるのでは違います。例えばテントだと空がだんだん明るくなって日が昇って来るという自然の流れをそのまま感じ取ることができます。


2016年9月30日 穂高の峰を赤く照らすモルゲンロート

とりわけ秋の時期は朝日が穂高の峰を赤く燃え上がらせるモルゲンロートが一層美しいです。小屋泊まりでもテラスとかで見えるのですが、涸沢のど真ん中からテントでずっと眺めているのはまた違うんですよ。
テントだと時間の経過も感じることができる。空が明るくなってきた頃目覚める、しばらくすると徐々に周囲も明るくなる、次第に朝日が穂高の峰々を赤く染め上げていき、最終的には真っ赤に燃え上がる。日が高くなって来ると真っ青な空に紅葉が美しく映えるようになる。これ以上ない最高の時間ですよ。なので可能な限りテントにしたいですね。
あとは、好きな時に起きて好きな時に寝れる。食事まで作る場合は好きな時に食べれる。これは大きいですね。

Q
聞いてるとテント泊したくなってしまいますね。やっぱり自由の幅が大きいということも魅力ですね。
A
テントの魅力は言葉だけではわかりませんから、今度ぜひテント泊してみてください(笑)

Q
紅葉を楽しんだあとはどこかへ登るんですか?
A
基本稜線に出て岳沢に下山します。


2012年10月14日 重太郎新道より焼岳を望む

あくまでも目的は登山ですから(笑)ただ、二日目の行程は涸沢から稜線に登るだけの行程にしています。そうすれば出発を急ぐことなくゆっくり紅葉を楽しめますからね。小屋だと清掃の関係で8時ごろには出なければならない。その点、テントは時間の制約はないです。私も9時前ぐらいまでゆっくりしていますね。

Q
稜線に上がるというと二日目の目的地は具体的にはどこになるのですか?
A
宿泊先となる穂高岳山荘ですね。

Q
きた! こだわりの穂高岳山荘ですね。
A
そうです(笑) 涸沢から穂高岳山荘は2時間〜2時間半で登ることができます。あまり早く到着しても受付時間になってないので急ぐ理由がないんですね。まあ、それはそれでビールでも飲みながら涸沢を眺めたり、反対側の涸沢岳を往復したりと色々できますね。


2012年10月13日 涸沢よりパノラマコース経由で稜線に上がる

涸沢から稜線に登って行くときも、単に登るだけでなく紅葉の綺麗な場所を通って行きますから、綺麗な景色を眺めながらゆっくり登って行きたいです。勿体ないですよ、周囲に目もくれず急いで登って行くのは。

Q
涸沢から穂高岳山荘に行くのにパノラマコースと涸沢小屋裏手のコースがあるようですが、どちらがいいのでしょう?
A
パノラマコースはその名の通り見晴らしがいいです。


2015年10月6日 パノラマコースより稜線を見上げる

パノラマコースから見える穂高の峰々は最高ですよ。ただし、その分コース的には長めになっています。涸沢小屋裏手のコースはほぼ直登に近い感じですが眺めは良いとはいえません。なので、景色を楽しみながらゆっくりという場合はパノラマコースを、時間的な制約があって少しでも早く行動したいという場合は涸沢小屋裏手のコースという感じで使い分けるのが良いと思います。

Q
稜線は紅葉するような木々はないと思いますが、それでも秋の稜線は違うものですか。
A
違いますね。


2015年10月7日 奥穂高岳山頂より槍ヶ岳を望む

もちろん、岩が紅葉することはないですが、秋はとにかく空気が澄んでいて遠くまで綺麗に見えるし、日差しの角度も夏と違って低くなっていますから影のつき方とかも違うし、当然気温も違うし、やっぱり季節によってまるで違いますね。

Q
これはすごい写真ですね。
A
はい、中央の槍ヶ岳から一番手前の涸沢岳まで全ての山頂が見えていますね。槍ヶ岳から先の峰々もくっきり見えていて地図読みのいい練習になりそうです。

Q
本当にそう思ってますか?
A
あ、いや〜(笑)

Q
穂高の稜線では10月になると積雪もあると言われていますが、実際にこの時期に雪は降るものなのですか?
A
降りますよ。何年か前に登ったときは積雪しました。


2015年10月7日 奥穂高岳手前。前日降った雪が残る

軽アイゼンは持っておらず、一番心配したのは凍結だったのですが 降ったのが夕方なので、そもそも解けることはないと思っていたし、実際に早朝に出発したときは凍っていなくてサラサラした感触でしたので、そのまま計画通り岳沢へのルートを取りました。

Q
さすがは3000mの稜線ですね。かなり広範囲で降ったのですか?
A
奥穂高岳を過ぎて紀美子平手前までは積雪がありましたが、そこから先(一気に高度が下がる)は雪はなかったです。ただ、この時の教訓として万が一のために軽アイゼンは装備に入れておく必要があると感じました。

Q
奥穂高岳から下山するのは岳沢経由がいいですか、それとも涸沢経由が無難ですか?
A
これはよく聞かれる質問です。ストレートにこういう言い方はしないものの「そういう質問をしている時点で、涸沢経由で下山すべきです」と答えています。まず、奥穂高岳から紀美子平までのいわゆる吊尾根が岩場のトラバースで、鎖や3点確保で岩を降りて行く場所などあり一般登山道の中でも難路であること。やっとたどり着いた紀美子平から先の重太郎新道はザイテングラートレベルの急斜面が延々と続いていること、森林限界を割り込んでも危険な斜面を下ることになり、死亡事故も多発している場所であること、山小屋が麓の岳沢小屋までないことなどが挙げられます。


2015年10月7日 吊尾根

視覚的に見ると写真の一番高いのが前穂高岳で、そこから右下にずっと急な尾根が続いています。まずは前穂高岳の下まで写真の急斜面をトラバースして行き、その後前穂高岳から続く急な尾根を降りて行きます。
なので奥穂高岳から岳沢に降りる計画をする場合は、どんな場所なのかよく理解した上で自分の技術や経験に見合うのであれば利用できると思います。上高地までの到着時間も涸沢経由と変わらない、場合によっては遅いくらいです。

Q
秋の穂高で他に登った山はありますか。
A
一度だけ槍ヶ岳から北穂高岳を縦走したことがあります。

2013年10月1日 大キレット飛騨泣下部より長谷川ピークを望む

当初の予定は槍ヶ岳から北穂高岳、奥穂高岳、前穂高岳で岳沢下山という計画でしたが、4日分の食料を含むテント装備一式だったものですから、大キレットを超えた時点で体力の限界に達し、宿泊地を急遽、穂高岳山荘から北穂高小屋に変更、 翌日は涸沢にエスケープしました。

Q
大キレットというのはそれだけ難路だということですね。
A
これも人によって捉え方が違うと思いますね。もちろん難易度の非常に高い稜線であることはどの資料を見ても明らかですが、技術的な難しさというよりもその規模の大きさから体力的にも難路であると言えると思います。

Q
どのあたりに体力的な難しさを感じますか?
A
槍ヶ岳側から来ると、難所である長谷川ピークを越え、最終的には飛騨泣きと呼ばれる絶壁を登ることになります。この絶壁の登攀の高低差が凄まじく距離も長いです。ずっと三点確保で登らなければいけないので(途中で若干休憩できるポイントはある)、体力面ならず精神面でも闘いになりますね。


2013年10月1日 飛騨泣を見上げる

写真は飛騨泣の一部です。ここを登ると初めてさらにその先の絶壁が見えて来ます。写真の上の方に北穂高小屋の一部が写っているのがわかりますか? 普通なら水平距離にして「もう少し先だね」なんて言いますよね。ところがここでは垂直距離からして「まだまだ上だね」という感覚なんですね。地図上の距離はそんなでもないですが、高低差がそれ以上にあるというとこです。

Q
これはさすがに日本の縦走路の中でも難路と言われる理由がわかります。いや、びっくりですね。これでも一般登山道な訳ですからね。
A
先ほども話しましたが、こんな一見崖のように見えてもルートがマーキングされていたり鎖やボルトが打ち込まれていたりして一般装備でもクリアできる様に整備されています。

Q
すごいです。
それでは最後に穂高の冬について聞かせていただきます。


「冬」変に続く


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