フェーン現状(初級)



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ここのところ天気予報を聞いていると「フェーン現象により記録的な暑さとなっています」という解説を聞くことがあります。フェーン現象は一般的にはよく知られた現象ですので今回はそのメカニズムについてもう一度おさらいすることにします。

まず、フェーン現象を簡単に言うと山の麓にある空気が山を越えて反対側の麓に降りると気温が高くなるといったところでしょうか。

そこで考えるのは「空気を上空に持っていくと冷たくなる」という熱力学の法則です。これを断熱膨張冷却と言いますが、初級ではその理由には触れません。もちろん空気を下に下ろせば逆に暖かくなります。ですがこれだけではフェーン現象の説明にはなりません。つまり麓から山頂にかけて空気が徐々に冷たくなるのはわかるが反対側に降りていけば逆に暖かくなるのだから反対側の麓に降りた空気の温度は変わらないということになってしまいます。

なので次に考えるのが「空気は湿っているときと乾いているときでは上下させたときの温度変化が違う」ということです。
ここで注意したいのは「乾いた」というのは湿度0%ではなく「飽和していない」つまり湿度が100%未満であるということです。極端なことをいえば湿度99%も気象学では乾いた空気(乾燥)の扱いになります。湿度が100%に達すると「飽和」したことになり、空気中にこれ以上水蒸気を含むことができない「湿った空気」(湿潤)になります。

では最初に「乾いた空気」について考えてみます。乾いた、つまり乾燥した空気を上空に持ち上げていくと、1000mで空気の温度は約10℃下がります。例えば海上の空気を風船に入れて穂高の山頂に持っていくと風船内の温度は30℃も下がることになります。
よく冗談でここから目で見える距離に天然の避暑地があるのですがどこでしょう? と聞いて考え込んだところで「上空に3Kmもいけば寒いくらいだ」なんて言って喧嘩になったとかならないとか。

ところが湿った(湿潤)空気はそう簡単にはいきません。先ほど飽和とは空気中にこれ以上水蒸気を含むことができない状態だと書きましたが、実は空気が上空に行き冷やされるほど含むことのできる水蒸気の量は減ります。
例えば麓では空気の中に水蒸気を最大10g含めることができたとします。でも空気を上空に持っていくと8gしか含めることができなくなるということです。では差となる2gの水蒸気はどうなるか。水蒸気としては存在できないので水に変化します。これを凝結と言います。
小学生の理科の授業で習った通りです。水は個体・液体・気体に変化するというやつですね。
2gが水蒸気として存在できずに水になる。何か気づきませんか? そうです、これが雲(細かい水の集まり)であり、やがて雨になります。

ここで重要なのは水が気体から液体になる時に熱が出るということです。これを「潜熱」といいます。つまり湿った空気を上に持ち上げると、凝結(つまり水蒸気から水に変化)が起こり、同時に潜熱が放出されます。この潜熱により、乾燥している空気の場合1Kmで約10℃温度が下がっていたところ、相殺されて1Kmで約5℃しか下がらなくなるわけです。

これを整理すると、

乾燥した空気は1Kmで約10℃変化する(乾燥断熱減率)

湿潤な空気は1Kmで約5℃変化する(湿潤断熱減率)


ということになります。


ではここで問題を。

ある山脈の南の麓に気温20度の空気塊がある。この空気塊が山脈を越えて反対側の北の麓に降りてきたときの気温を求めよ。なお、麓の標高は南北で同じ、山脈の標高は2000mであり、南から持ち上げられた空気は標高1000mで飽和し、凝結した水は山頂で全て降雨となるものとする。また乾燥断熱減率は10℃/Km、湿潤断熱減率は5℃/Kmとする。


まず、麓から1000mまでは乾燥空気ですから1000mで10℃下がります。従って標高1000mの地点では空気塊の温度は10℃です。1000mで空気は飽和するとあるので、1000mから頂上までは1000mで5℃下がります。ですから頂上での気温は5℃になります。その後空気塊は反対側の麓に向かって降りて行きます(凝結した水は全て降雨となると定義されているので、空気中の水の蒸発について考える必要はありません)。空気塊は下へ行くほど温度が上がり含むことができる水蒸気量が多くなるわけですから乾燥した空気の状態となります。山頂から麓までは2000mですので乾燥している空気の温度は20℃上昇します。頂上で空気塊の温度は5℃でしたから反対側の麓に降りたときの空気塊の温度は25℃となります。


少しハードな説明になりましたが、これがフェーン現象のメカニズムです。
なお、例題では空気が飽和するのは1000mであるとしましたが、実際は空気が湿っていればいるほど飽和する高度は低くなります。飽和する高度が低くなるということはそれだけ山脈を越えてきたときの温度差が大きくなるということです。
仮に上記の問題で飽和する高度を500mとした場合、反対側の麓に降りてきたときの空気塊の温度は27.5℃になります。

従って、台風や低気圧が接近して湿った空気が流入した場合、山脈の反対側ではフェーン現象が起きやすくなります。フェーン現象は乾いた温度の高い空気が降りてきますので火災の原因になることがあります。