K-indexを実際に活用する
K-indexという言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。一般の方で「ああ、知っています」という人はまずいないでしょう。
K-indexというのは簡単に言えば大気の安定度を数値で表したもので、数値が大きければ大きいほど大気は不安定になります。類似したものとしてSSI指数があります。気象予報士を勉強されてきた方にとってはSSIの方が馴染み深いのではないでしょうか。
実はこのK-indexは第49回気象予報士試験の学科試験一般知識に出てきました。
まず、K-indexは次のように表せます。
K-index = ( T850 - T500 ) + D850 - ( T700 - D700 )
これだけ見るともう拒否反応を示す方も多いことでしょう。では上記の数式を日本語に置き換えて見ましょう、
T850 ・・・850hPa気温 → 高度約1500mの気温
T500 ・・・500hPa気温 → 高度約5500mの気温
D850 ・・・850hPa露点温度 → 高度約1500mの露点温度
T700 ・・・700hPa気温 → 高度約3000mの気温
D700 ・・・700hPa露点温度 → 高度約3000mの露点温度
※露点温度は空気が飽和状態(湿度100%)になるための温度
従って
①まず、高度約1500mの気温から高度約5500mの気温を引きます。次にその値に高度約1500mの露点温度を足します。ひとまずこれは置いといて・・・
②次に高度約3000mの気温から同じく3000mの露点温度を引きます(これを湿数と言います)。
最初に計算した①の値から②で求めた湿数を引きます。
え? かえって分かりづらいって??
では簡単な例題から。
ある日のA観測地点上空で測定した大気の各気圧面の気温と露点温度は次の通りであった。
850hpa気温 = 15℃
850hPa露点温度 = 19℃
700hPa気温 = 12℃
700hPa露点温度 = 11℃
500hPa気温 = -2℃
この時のK-indexを求めよ。
K-index = ( 15 - (-2) ) + 19 - ( 12 - 11 ) = 35
目安になりますがK-indexが36〜39で雷雨の発生確率は80〜90%、40以上にもなると雷雨の発生確率はほぼ100%とされています。
では、ここから実技に入りましょう。
500hPa高層天気図(出典:気象庁HP)
700hPa高層天気図(出典:気象庁HP)
850hPa高層天気図(出典:気象庁HP)
さて、7月30日現在の500hPa、700hPa、850hPaの各高層天気図を並べてみました。各天気図には矢羽で示されている風向きのそばに数字が二段に分けて書いてあります。上段が気温、下段が湿数(気温−露点温度)です。
ではまず、東京付近にある数値から見てみましょう。
500hPaの気温は -3.7℃と読み取れます。
700hPaの気温は11℃と読み取れます。
700hPaの湿数は7℃ですので露点温度は4℃です。
850hPaの気温は18.4℃と読み取れます。
850hPaの湿数は10℃ですので露点温度は8.4℃です。
これをK-indexの式に代入すると
( 18.4 - (-3.7) ) + 8.4 - ( 11 - 4 ) = 23.5
関東付近のアメダス(雨量)を見ると09時の時点では降水はなく、雷雨になるほど不安定にはなっていないことがわかります。
次に、九州南部にある数値を見てみます。少し見づらいかもしれませんが・・・
500hPaの気温は -2.5℃
700hPaの気温は11.6℃
700hPaの露点温度は 7.2℃
850hPaの気温は17.4℃
850hPaの露点温度は15.7℃
K-index = ( 17.4 - ( -2.5 ) + 15.7 - ( 11.6 - 7.2 ) = 31.2
九州南部のアメダス(雨量)を見てみると、こちらも09時の時点では鹿児島の一部で強い降水が観測されている以外はほとんど降水は観測されていません。もちろんK-indexは東京よりは大きい数値が出ていますので東京よりは大気が不安定であり、気温や露点温度のわずかな変化で大気が非常に不安定になる潜在性を持っていることになりますが、09時の時点では目立った対流性の降水がほとんどなく極端に不安定な状況ではなかったことがわかります。ちなみに他の地点のK-indexも計算しましたが同じような数値が出ました。
台風が丁度九州付近で停滞気味になっているので正直もう少しK-indexが大きく出るかと思いましたが想定したよりは数値が少なかったです。
その理由について考えられるのは、まず全般的に湿数(湿数は数値が低いほど飽和に近くなる)が高めであるつまり乾いていること、そして次の実況図をみて見ると・・・
画像出典:気象庁
これは700hPaの鉛直流を追った実況図(30日09時)ですが、09時の時点では北海道と九州付近を除くほとんどの地点で下降気流になっていること、上昇気流なっている九州付近でも-19hPa/hと移流量が少ないことなどがK-indexの数値の低さに結びついたものと考えます。
このようにK-indexは簡便な手段で大気の不安定を知ることができますので大変便利です。もちろん数値予報図からも今後のK-indexを予測することは不可能ではありませんが、我々一般人が入手可能な数値予報図では解析図のようにピンポイントでの気温や湿数が示されていないことや、850hPaの露点温度が表示されていないので、予報図においてはあまりK-indexにこだわらない方がいいかと思います。
予報図から大気の安定・不安定を予測するには850hPaの相当温位や500hPaの渦度や寒気の状態、700hPsの鉛直P速度、300hPsのジェット気流などを組み合わせて総合的な気象の場として考えていく必要があります。