寒冷低気圧とは何か

この度の台風12号が普段とは違って西に進んでいったことについて、報道でその理由を解説する中で寒冷低気圧(寒冷渦または切離低気圧)という単語を聞く機会があったかと思います。
乱暴な言い方をすれば、寒気の一部分が切り離されて低気圧になった状態のことを言います。今回の寒冷低気圧について言えば7月25日09時の時点で太平洋高気圧が左右に分かれたときに寒気が入ってきましたが、その一部が切り離されて寒冷低気圧になったものと推定されます。この時の5oohPaの天気図が次の通りです。


画像出典:気象庁HP


ちょうど緑色の線で示した部分が寒気が南側に入り込みすぎて、この後切り離される部分です。この部分の中央にCの文字があります(青で○した部分)。これは周囲より気温が低いことを意味します。

したがって寒冷低気圧とは言いますが、元々は寒気の一部分であり、私たちが通常「低気圧」と言っている温帯低気圧とは構造が異なります。

温帯低気圧は大雑把な言い方をすると冷たい空気と暖かい空気が混ざり合うことによって生じる大気の乱れ(擾乱と言います)です。温帯低気圧は反時計回りで周囲の空気を吸い込むので結果として上昇気流になります。

では寒冷低気圧はどうなのかというと、先ほどから書いている通り元は寒気の一部ですから冷たい空気が勢いよく渦を巻いている状態です。冷たい空気というのは重いですから低気圧として上昇してくる空気を抑えてしまいます。なので、寒冷低気圧は私たちが普段テレビや新聞でみる天気図(地上天気図と言います)ではほとんど存在を確認できません。「台風12号は低気圧の影響を受けて西に進路を変えた」と聞いたのに当の低気圧がどこにも無いぞ、と思われた方もいるかもしれません。寒冷低気圧は上空の寒気の一部でしたので上空の寒気が確認できる天気図でないと存在が明確になりません。上空の寒気が確認できる天気図は高層天気図です。高層天気図もたくさん種類がありますが500hPaの高層天気図がよく使われます。先ほどの天気図も500hPaの高層天気図です。「普段見ている天気図と違う」と思われた方は鋭いです!

寒冷低気圧は天気の激しい変化をもたらします。とりわけ寒冷低気圧の南東側は非常に荒れた天気になりやすいので注意が必要です。また寒冷低気圧は通常の温帯低気圧と違い進みが遅く、西へ逆走することもあります。

寒冷低気圧について少しはおわかりいただけたでしょうか?

では、少しレベルの高い話をさせていただきます。


画像出典:気象庁HP


上の画像は前回の投稿時に使ったのと同じ高層断面図です。高層断面図は沢山の情報が書かれているため非常に見にくいです。なので少し色づけさせていただきました。緑色の線が気温(℃)です。赤い線は「対流圏界面」と言い、対流圏と成層圏の境目です(断面図に記載の圏界面高度を参考に私なりに線を引いています)。つまり赤い線から下は対流圏、赤い線より上は成層圏です。

高層断面図の下の方にHACHIJOJIMAと書かれています。この部分が一番凹んでいます。なぜこんなに凹んでいるのでしょうか。

湯飲みにお茶を入れて勢いよくかき混ぜる様子を想像して見てください。お茶の中心付近は渦の中心になって高さが下がりますね。これと同じ原理で寒冷低気圧の中心付近である八丈島付近は高さが下がり、下がった分、成層圏が降りてきています。

先ほどから「対流圏」「成層圏」という単語を使っていますが、何が違うのかというと、その違いは様々ですが気温の観点からいえば対流圏は上空に行けば行くほど気温が下がり成層圏は上空に行けば行くほど気温が上がります。気温が上がるのは太陽に近くなったからではなく成層圏にはオゾンがありオゾンが紫外線を吸収する際に熱を発するからです。

これらを踏まえて高層断面図をもう一度見て見ます。特に気温の変化に注目すると赤い線より上の成層圏の部分では「へ」の字になって気温が上昇しているのがわかります。反対に赤い線より下の対流圏では逆向にきなって気温が下がっています。このように上層は気温が高いことから「暖気核」とも呼ばれます。ちなみに台風も暖気核ですが、これは水蒸気が水滴に凝結するとにに出る「潜熱」と呼ばれる熱によるものですので寒冷低気圧の暖気核とは異なります。